====== リディアとの手紙の記憶 ====== {{:リディアとの手紙の記憶.jpeg?400|}} [[エリーナ・クレスウェル]]は静かな夜、ひとりクレスウェル家の薄暗い書斎にいた。小さな机の上には、丁寧にしまわれた姉[[リディア・クレスウェル|リディア]]からの手紙が何通か積み重なっている。手紙はリディアが[[カストゥム]]に旅立った直後から送られてきたもので、その一つ一つがエリーナの大切な宝物だった。 ランプの暖かい光の中でエリーナは、そっと一枚の手紙を手に取り、丁寧に封を切り開いた。リディアの力強い筆跡が、紙の上で堂々と踊るように並んでいる。「エリーナ、元気でいる?」そんな言葉が真っ先に目に入り、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。 「お姉様……」声にならない声で、エリーナは手紙を抱きしめた。その頃から心の奥にある不安を和らげるため、何度も読み返した手紙だったが、今はかえってその文字が、リディアの不在を際立たせるかのように感じられた。 リディアは遠い地で新たな力を身に着け、クレスウェル家を守る覚悟で訓練に励んでいる。その誇らしい姿が目に浮かび、エリーナは「自分も姉のように強くなりたい」と幾度も思い描いたものだ。だが、心の片隅では「どうして私が家を支えなければならないのか?」という疑問が消えずに残っていた。 「姉上……あなたなら、この重さをどう支えたでしょう?」と、心の中で問いかける。しかし、答えはない。あの強くて、優しい姉の返事は、今はもう手紙の中にしか存在しない。エリーナの指先が自然と震え、その不安が徐々に増していく。 ふと、彼女は手紙の一節に目を留めた。「エリーナ、もし私がいなくなっても、大丈夫だからね。あなたには強い心がある。私の分も、未来を信じてほしい」リディアの言葉に励まされた気持ちが少しよみがえるが、その一方で、その言葉が暗示する何かを恐れる気持ちもあった。 エリーナは手紙を再びそっとしまい、思わず涙をぬぐった。「あなたが信じた未来を、私も信じていかなければ……」そんな決意を胸に、彼女は立ち上がる。明日もまた、リディアが戻ってくるその日まで、自分ができる限りのことを果たしていくと心に誓ったのだった。