アレクサンドル・ヴァン・エルドリッチが十代のころ、彼はまだ若く、現在のような冷静さと落ち着きを持ち合わせてはいなかった。彼の心には純粋な理想が渦巻き、力を身につけ、秩序を守る者として活躍する夢を抱いていた。彼はその目標のために、日々鍛錬を積み、周囲の誰よりも多くの時間を訓練に費やしていた。
ある日、アレクサンドルは街の外れにある小さな村で、セドリック・ヴォルストという年老いた戦士に出会った。セドリックは、かつて大陸中で名を馳せたが、今では引退し、静かに暮らしていた。村の広場で訓練をしていたアレクサンドルに興味を持ったセドリックは、彼のもとへと歩み寄り、声をかけた。
「若いの、お前は何のためにそんなに剣を振るっているのだ?」
アレクサンドルはセドリックに気づき、彼の目を真っ直ぐに見つめて答えた。「秩序と正義を守るためです。この国の人々を守りたいと考えています」
セドリックは微笑みながら頷いたが、目にはどこか哀しげな色が宿っていた。「立派な志だ。しかし、その志を持つだけでは守れないものが多いのも事実だ」
「どういう意味ですか?」アレクサンドルはその言葉の意図が掴めず、少し不安そうに尋ねた。
セドリックは静かに語り始めた。「かつて私もお前と同じように考えていた。だが、力だけでは守れないものがある。秩序を守るということは時に冷酷さを伴い、理想と現実の狭間で苦しむことになるだろう」
その言葉を聞いたアレクサンドルは、一瞬言葉を失った。彼はこれまで理想に燃え、力を得ることこそが正義を貫く道だと信じて疑わなかった。だが、セドリックの言葉が彼の中で何かを揺さぶった。
「では、どうすれば良いのでしょう?」アレクサンドルは真剣な表情で問いかけた。
セドリックはしばらくの沈黙の後、柔らかい口調で答えた。「心を強く持つことだ。そして、人を理解すること。力だけでなく、知恵と忍耐が必要だ。それを学ぶのに、人生は短いが、それを知った者はきっと強くなれる」
それから数年、アレクサンドルはセドリックの教えを心に刻みながら、ただの力ではなく、知恵と心の強さを追い求めるようになった。セドリックとの出会いは、彼にとって大きな転機であり、現在の彼の冷静さと洞察力の根幹となるものであった。この経験が、アレクサンドルを単なる戦士ではなく、リーダーとしての道へと導くきっかけとなったのである。