エリディアムへの旅は、風景が徐々に変わりながらも、一行に緊張感を漂わせていました。アレクサンドルは馬車を進めながら、これから迎える試練に思いを巡らせていました。伯父のオスカーから受けた言葉が心の中で繰り返されます。「ここでの行動が未来を左右する。しくじるわけにはいかない……」彼は横を歩くマリアナに視線を送りました。彼女もまた、覚悟を新たにしているようです。
「エリディアム……こんなに美しい場所なんですね」とマリアナが小さくつぶやきました。彼女の声には、感嘆と緊張が入り混じっていました。初めて見る壮麗な街並みに胸を高鳴らせつつも、貴族たちとの会談にどう挑むか、まだ不安が消えない様子です。
アレクサンドルは彼女に微笑みかけ、「緊張するなよ、俺たちが力を合わせれば、きっと乗り越えられる」と励ましました。マリアナは彼の言葉に安心を覚えつつも、顔に少し赤みを浮かべました。「うん、一緒なら大丈夫……だよね」
リュドミラは馬上から風景を眺め、透視能力を活かして危険がないかを探ります。「今のところ、怪しい動きは見えないわ」と安心させるように一行に告げました。彼女の冷静な声は、緊張感を少し和らげましたが、それでも彼女の瞳には油断のない鋭さが光っていました。「けど、気は抜かないで。何が起きてもおかしくないのだから」
エリオットはその言葉に頷きつつ、ふと隣にいるエリーナの姿を見ました。エリーナは明るく振る舞おうとしているものの、どこか影のある表情が浮かんでいます。エリオットはその理由を察しきれず、少しだけ眉をひそめました。「エリーナ、大丈夫か?」
エリーナは一瞬驚いたように目を見開き、慌てて笑顔を作りました。「もちろん、大丈夫よ!お姉様の結婚式だもの、できるだけ力になりたいって思ってるわ」彼女の心の中では、エリオットに対する複雑な思いが渦巻いていました。リディアの政略結婚を思うと、自分の将来にも重なる影が見えてしまい、不安が膨らんでしまうのです。
エリオットはエリーナの微笑みを見て少し安心しつつも、彼女が抱えている不安に気付けない自分をもどかしく思いました。「そっか……まあ、何かあったらすぐ言ってくれよ」
その言葉にエリーナは胸が少し温かくなり、また自分の感情に戸惑いながらも、「ありがとう」とだけ答えました。彼女の笑顔の裏には、エリオットへの想いをどうしたらいいのか分からないもどかしさがありました。
エリディアムが見えてくるにつれ、アレクサンドルたちは気を引き締め直しました。マリアナは改めて決意を込め、「どんな挑戦が来ても、私は負けない」と自分に言い聞かせるようにつぶやきました。
こうして、それぞれが思いを抱えたまま、一行はエリディアムの壮麗な街へと足を踏み入れていったのでした。