クレスウェル邸の一角で、レオン・クレスウェルと彼の両親、さらにカトリーヌ・ティヴェリアンとその両親が集まり、真剣な表情で話し合いをしていた。彼らの姿から、家の将来を左右する重要な話題――レオンとカトリーヌの縁談――が進行していることは明らかだった。エリーナ・クレスウェルは、その様子を廊下の端から遠目で見守っていた。兄レオンの縁談が動き出している。リディアに続いてレオンも政略結婚の道を歩み始めたのだ。エリーナは、自分の番が来るのも時間の問題だと、心が締め付けられるような感覚を覚えた。
その時、先ほどアレクサンドルに絡んでいたリュドミラ・アラマティアとマリアナ・ロマリウスが廊下を通りかかり、エリーナの緊張した表情に気付いた。リュドミラは腕を組みながらエリーナに歩み寄り、まっすぐな眼差しで言った。「エリーナ、グズグズしていると、周りに流されるだけよ。心に決めたことがあるなら、自分の意志を貫いた方がいいわ。結果がどうなろうと、エリオットにはちゃんと思いを伝えなさい」
その言葉に、エリーナはハッとした表情を見せた。リュドミラの真剣な口調が胸に響き、覚悟の必要性を改めて実感する。そこにいたマリアナも、驚いたようにエリーナを見つめた。「エリーナがエリオットに思いを寄せているなんて……」マリアナの目が一瞬丸くなり、驚きが浮かぶ。その反応に、リュドミラがクスクスと笑った。「何も知らなかったみたいね、マリアナ。でもあなたも、気持ちを伝えるまでにずいぶん遠回りしたものね?」
マリアナは一瞬言葉に詰まったが、すぐに小さく笑みを浮かべた。「確かにそうね。私も、自分の想いを伝えるのに遠回りしてしまった。でも、最後には伝えたわ」そしてエリーナの肩にそっと手を置いた。「だから、エリーナ。もし本当に大切な気持ちがあるなら、怖がらずに自分の道を選ぶべきよ」
エリーナは二人の励ましに少し顔を伏せたが、やがてその目に小さな決意の光を宿した。「ありがとう、リュドミラ、マリアナ。自分がどうしたいのか、もう一度しっかり考えてみる」
マリアナは微笑みながらエリーナを見守りつつ、自分がかつて同じように、想いを伝えることに迷い、悩んだことを思い出した。それに比べれば、エリーナはまだ多くの支えがある状況かもしれないと、どこか温かい気持ちで思った。エリーナを見つめる二人の視線には、それぞれの過去と未来への思いが重なっていた。