リディア・フィオルダスは、日常業務を終えてフィオルダス邸の庭に佇んでいた。冷たい夜風が頬を撫で、彼女は静かに空を見上げる。そこに、微かな足音が近づく気配を感じた。
「リディア様、こんな夜更けに一人でいるとは珍しいですね」と、低い声が響く。
振り向くと、黒いフードをかぶった使者が立っていた。その目には不気味な光が宿り、ただならぬ雰囲気を漂わせている。
「あなたは誰?この庭に入れる者は限られているはずよ」と、リディアは冷静を装いながらも、心の奥底で緊張が走った。
使者はゆっくりとフードを外し、薄く笑う。「我々はあなたが探しているものを知っている。失われた魔法についての情報を求めているのであれば、話を聞いていただきたい」
リディアは動揺を隠しつつも鋭い視線を投げかけた。「あなたの背後にいるのは月の信者たちね?私が興味を示すとでも?」
使者は一瞬言葉を止めたが、再び口を開いた。「興味を持たなくても構わない。だが、貴女の夫であるマルコム様や、フィオルダス家全体が、この情報によってどれだけの利益を得られるか考えてみてください」
リディアは一歩前に出て使者の目をじっと見つめた。「もしも、この情報が罠であれば、あなたたちには報いがあると知りなさい」
使者は薄く笑いながら低頭し、「我々は貴女の答えを待つ。必要な時にまた訪れる」と言い残し、影のようにその場を去った。