エリーナ・クレスウェルは、毎朝の日課を欠かすことなくこなしていた。広い邸宅の庭に出て、手に馴染んだ剣を握る。まだ薄暗い早朝の空気を吸い込み、静かに目を閉じた。剣を振るうたびに、風を切る音が耳に響き、無心になって体を動かす。幼い頃からずっと続けてきたこの訓練だが、最近は特に意味深いものに感じていた。
「お姉様なら、この動きをどう言うだろう?」
ひとりごちたエリーナは、かすかな寂しさを感じた。リディアがいなくなってから数ヶ月が経っていた。姉が剣術道場で修練を積むために旅立ったことを誇りに思いながらも、エリーナの心はぽっかりと空いたままだった。
エリーナにとって、剣術はただの力を示す手段ではなく、自己を高めるためのものであり、何よりもリディアとの繋がりを感じられるものであった。剣を通して、姉と同じ道を辿ることができるような気がしたからだ。だが、エリーナは戦いには興味がなかった。彼女にとって剣とはあくまで心を整える手段であり、姉のように敵と対峙するものではなかった。
その日の訓練を終えると、エリーナは庭の片隅に腰を下ろし、家族のことを思い出していた。クレスウェル家はかつて名高い家柄だったが、最近ではかつての栄光も影を潜め、家中に漂う空気もどこか沈んでいた。彼女は周りからの期待や圧力に少しずつ気づき始めていた。
「お姉様なら、この状況でどうするの?」
その問いに答える声は、いつも心の中で響いている。姉がそばにいない寂しさを、エリーナは日に日に強く感じていた。