ヴァルカスの葛藤と再起の選択

ミカエル・ヴァレンが指定された場所に到着したのは、夕闇が街を包み始めるころだった。街の小さな酒場の裏手にある静かな路地。そこには、鋭い目つきと逞しい体つきのヴァルカス・ヘルビウスが待っていた。彼の表情は険しく、不信感を隠そうともしなかった。

「お前か……何の用だ?」ヴァルカスは、ミカエルを見据えながら低く声を出した。

ミカエルは一歩前に出て、冷静に目を合わせた。「ヴァルカス、君と話がしたい。クレスウェル家に関することだ」

その言葉にヴァルカスの眉が動いた。彼は唇を噛み、視線をわずかにそらした。「クレスウェル家のことなど、今さら俺に関係ないだろう。俺は……もう裏切った身だ」

ミカエルは軽く頷きつつも、目を逸らさなかった。「確かにそうだ。しかし、その裏切りは君一人のためではなかったと理解している。君が何を守ろうとしていたのか、私たちは知っている」

その言葉にヴァルカスの肩がわずかに揺れた。長い沈黙が二人の間に流れた後、彼は低い声で問いかけた。「何が目的だ、ミカエル?」

ガイウス様もレオン様も、もし君が帰参を望むのであれば、過去を責めたりはしない。クレスウェル家は再び君を迎える用意がある。報酬も保証されるし、家の財務状況は回復している」

ヴァルカスの瞳には、戸惑いと懐かしさ、そして過去の記憶が交錯していた。「俺は……家族や部下を守るためにあの選択をしたんだ。けれど、それがどれほどの重みを持っていたか、分かっているのか?」

「分かっている。だからこそ、君をここに呼んだ。過去は過去だが、今後の道を選ぶのは君次第だ」ミカエルの言葉は、静かな説得力を持って響いた。

ヴァルカスはその場で立ち尽くし、何度も胸の中の葛藤を押し込むように息を吐いた。「少し考えさせてくれ。すぐには答えを出せない」

ミカエルは穏やかに微笑んで一歩後退した。「それでいい。結論は急がなくていい。だが、君が再び仲間として戦う決意をすることを期待している」そう言い残して去っていくミカエルの後ろ姿を見つめ、ヴァルカスは自らの胸の内に深い問いを投げかけ続けた。