交差する街の中で

カストゥムの賑わいの中で、アレクサンドルは目の前に広がる街並みを見渡した。石畳の路地に面したカフェが並び、往来する人々のざわめきが絶えないこの場所は、彼にとっても見慣れた光景だ。レティシア・ノルヴィスが「紹介したい友人がいる」と言ってくれたことで、彼は少し期待と緊張を抱えていた。彼女が信頼する人間なら、自分たちの捜索の助けになるかもしれない。

カフェの木製テーブルに座って、アレクサンドルは周囲を観察していた。すると、黒髪の男が一人、背に大きなバックパックを背負って近づいてきた。その姿はまさに旅を重ねた者を彷彿とさせる――彼がセシル・マーベリックだった。


カストゥムの街中を歩きながら、セシルは目的地のカフェを目指していた。レティシアの紹介で会うことになった「アレクサンドル」という人物について、少しの好奇心を抱いていた。単なる武闘派とは違い、目的と信念を持つ人物だと聞いているが、実際にどのような人間なのか確かめたかった。

カフェに入ると、すぐに自分の席にいるアレクサンドルの姿が目に入った。彼は落ち着いているように見えながらも、目には鋭い光が宿っているのを感じた。セシルは小さく頷きながら、相手の表情を見つめた。


「君がセシル・マーベリックか?」とアレクサンドルが声をかけると、セシルは冷静な面持ちで頷いた。簡単な挨拶を交わした後、アレクサンドルはリディアの件について切り出す決心をした。ここまで彼が隠し続けていた焦りと、失踪した仲間への想いが、ほんの少しだけ顔に現れていたかもしれない。

リディアという友人が行方不明なんだ。彼女は、黎明の翼にとって特別な存在で、彼女がどこにいるのか手がかりを探している」アレクサンドルは言葉を選びながら、自分たちが直面している状況を説明した。彼の声には、長い間リディアを追い続けてきた疲れと希望が入り混じっていた。


アレクサンドルの説明を黙って聞きながら、セシルはこの男が抱える重みを感じ取っていた。地図作成を生業とする自分とは違い、彼は誰かのためにリスクを冒し、使命感に突き動かされている。その真剣な眼差しに、どこか誠実なものを見出した。

「レティシアから、君が目的を持った人物だと聞いていたが、実際に会って納得できたよ。リディアという女性が君にとって重要な存在だというのが分かる」

セシルはカバンから地図を広げ、リディアの行方を追う手がかりとなりそうな場所を確認し始めた。彼の指先が地図上を滑るたびに、彼の冷静な観察力と分析力が垣間見える。アレクサンドルが言う「捜索」は、自分にとって地形の調査に通じる部分もあり、協力することで得られる知識には興味があった。

「君の話を聞いていると、協力してみたくなるな」と、セシルは穏やかに笑って言った。「僕の地図作成と測量の知識が役立つなら、君の仲間探しに協力しよう」


セシルの言葉に、アレクサンドルは胸の内が少し軽くなるのを感じた。リディアの捜索には、仲間の助けが必要だと痛感してきたからだ。冷静で集中力の高いセシルのような人間が加わることで、道のりが少しずつ明確になっていく気がした。

「君が協力してくれること、本当に心強く思う。地図と知識の助けは僕たちにとって大きな力になるよ」

カストゥムのざわめきに包まれながらも、二人の間には静かで強い信頼の絆が生まれ始めていた。この交差する街での出会いが、リディア捜索のための新たな道筋を切り開く最初の一歩となるのを、アレクサンドルは強く感じていた。