アレクサンドルとマリアナは、再びロマリウス家の門をくぐった。風に揺れる花々と穏やかな庭の景色が二人を迎える中、最初に彼らの姿に気付いたのは、マリアナの妹カトリーヌだった。
「お姉様、アレクサンドルさん!また来たの?」カトリーヌは目を丸くして駆け寄った。その顔には驚きと、少しばかりの好奇心が混じっている。短期間での再訪に驚くのも無理はない。
マリアナは苦笑いしながら答えた。「ええ、実は……大事なことを忘れていたの。まだ話さなきゃいけないことがあるのよ」
カトリーヌはその言葉に笑いを漏らし、「お姉様らしいわ」と肩をすくめた。
広間に通されたアレクサンドルとマリアナは、再度両親の前に座った。アルベリクとエリゼは二人をじっと見つめていたが、マリアナが言いかけたところでアレクサンドルが先に口を開いた。
「実は、アレナ・フェリダという探偵の雇用についてご相談に参りました。彼女は情報収集に長けていて、僕たちがこれから直面する問題において必要不可欠な存在です」
アレクサンドルは言葉を選びながら、月の信者たちの脅威についても率直に話した。彼はその話を前回漏らしてしまったことを思い出し、今さら隠す意味はないと判断したのだ。
「それと、今後エルドリッチ商会があるカストゥムを活動の拠点とするつもりです。ロマリウス家との間で、円滑な通信手段も確立しなければなりません」
アルベリクは腕を組み、眉をひそめた。「ふむ、君たちの話を聞くと大変な状況だというのは理解できるが、簡単に了承できる話でもない。探偵を雇うというのは……」
少し考え込んだ後、彼は深いため息をつき、言葉を続けた。「だが、二人へのお祝いという名目で認めてやろう。せっかくの結婚を台無しにはしたくないからな。ただし、今後は大事なことを忘れず、一度で済ませるようにしてくれ」
その言葉に、アレクサンドルとマリアナは苦笑を浮かべた。隣でエリゼがこらえきれずに笑い出した。「ふふふ、あなたたちったら本当に面白いわね。アルベリク、少し厳しすぎるわよ」
アルベリクは照れくさそうに肩をすくめたが、どこか温かみを感じさせる家族のひとときがそこにあった。マリアナとアレクサンドルは再び感謝を込めて深く頭を下げ、新たな一歩を踏み出す覚悟を胸に秘めたのだった。