リディア・クレスウェルは、朝の澄んだ空気の中、カストゥムの剣術道場に立っていた。早朝から始まる稽古の場には、静寂と緊張が漂っている。リディアは手にした剣の重みを確かめながら、目の前の訓練相手と構え合い、向き合っていた。
「いいか、焦るな。剣は、お前が本当に守りたいものを想いながら振るものだ」
重々しい声とともに、道場の師範タルスがリディアに鋭い視線を向けている。無骨で厳格な佇まいのタルスの言葉には、ただの技術を超えた深い意味が込められていた。リディアはその言葉を噛み締めながら、深呼吸し、今一度、剣に心を向けて構え直した。
タルスの合図が下ると、リディアは一気に剣を繰り出した。彼女の動きは淀みなく、攻撃の軌跡は美しく正確だ。訓練相手の防御を引き出しながらも、見逃さないよう隙を狙い、何度も一歩踏み込む。その一連の動きには、ただの若者の挑戦ではなく、家を背負う者としての意志と自信が宿っているようだった。
「よし、悪くないが……まだ攻撃の手が浮ついているぞ、リディア」タルスが歩み寄り、剣先を軽く突きながら忠告する。「剣は心と一緒に振るものだ。お前が剣を通じて何を成すべきか、もっと深く見据えるんだ」
リディアは師の言葉に静かにうなずき、再び剣を構えた。家の状況を守り抜くための焦りが、彼女の剣筋に現れていることを痛感し、落ち着いて意識を集中させた。そして、リディアは剣を振るうことで心が落ち着いていくのを感じ、改めて自分の覚悟を心に据える。
稽古が終わり、仲間たちがリディアを讃えて声をかけてきた。「さすがの腕前だ」「さっきの一撃、よく見えなかったよ」と、称賛の声が道場に響く。かつて、家を背負う重責に不安を抱いていた彼女だったが、今ではその視線には、自分の道を歩む強い決意が光っていた。
一人になったリディアは剣を見つめ、そっとその刃を撫でた。「これで私は、家族を守れるかもしれない……」と、小さくつぶやき、未来への静かな決意を再確認する。
タルスのもとでの鍛錬が、リディアの心と剣を育み、彼女の内に宿る強さを一層輝かせる。