フィオルダス家の広間には、穏やかな緊張感が漂っていた。美しい装飾が施された会場には、フィオルダス家の旗と黎明の翼の紋章が並び立っていた。リディアはその場に立ち、これから始まる重要な調印式に向けて心を静めていた。彼女はアレナの念話を通じてアレクサンドルたちとの合意を事前に取り付けており、その決意は揺るがなかった。
「アレック、準備は整ったわ」と、リディアは念話の中で静かに告げた。アレクサンドルの力強い声が頭の中に響いた。「ありがとう、リディア。君に任せて正解だ。全員が君を信じている」。その言葉に、リディアは胸の奥が温かくなるのを感じた。
マルコムはリディアの横に立ち、妻の堂々たる姿を見て誇りに思っていた。彼の顔には微かな緊張が浮かんでいたが、その目は決意に満ちていた。「今日は歴史的な一歩だ。我々が守るべきものが何なのか、改めて心に刻んでいる」と心中でつぶやいた。
ガイウスとアンナは、離れた席からその様子を見守っていた。ガイウスは息をつき、「リディアがここまで来るとはな。あの子の強さには頭が下がる」としみじみと語り、アンナは静かにうなずいた。「彼女が家族を守り、未来を築こうとしている姿を見ると、安心するわ」と、愛情を込めて答えた。
調印式が始まると、リディアは堂々とした足取りでテーブルに向かい、ペンを取り出した。その手が一瞬震えたのをマルコムは見逃さなかったが、彼はすぐに手を伸ばして彼女の背中にそっと触れた。「君がいる限り、我々は大丈夫だ」と優しくささやいた。その言葉にリディアは微笑み、最後の一筆を走らせた。
宣言が読み上げられると、会場全体に拍手が広がった。フィオルダス家と黎明の翼の協力関係が正式に成立した瞬間だった。アレクサンドルは遠く離れた場所でその歓声を聞き、静かに微笑んだ。「これでまた、一歩前進だ」と心の中でつぶやいた。
一方、ガイウスとアンナの顔には安堵の色が浮かんでいた。「これからが本当の戦いだが、今日という日は誇りに思える」とガイウスは言い、アンナはそっと彼の手を握った。
リディアは背後の家族とマルコムに視線を向け、力強くうなずいた。彼女は一歩を踏み出し、家族と共に新たな未来に向かって進む覚悟を決めたのだ。