噂の種火

ジュリアン・ヴァルドールは、薄暗い書斎の中でエドモンド・ドレヴィスと向かい合っていた。エドモンドの冷徹な眼差しが彼に向けられるが、ジュリアンはその視線に臆することなく静かに口を開く。「我々の次の一手は、クレスウェル家の名誉を完全に失墜させることです」

エドモンドは深く頷き、卓上の書類に視線を落とす。その中には、クレスウェル家が異端教団と密かに結託しているという、捏造された証拠が並べられていた。これを使って、信頼を失墜させる計画が練られていたのだ。「この証拠を元に、慎重に噂を広めるのが肝要だ」とエドモンドは重々しい声で言った。

ジュリアンはその冷静な表情のまま、慎重に頷いた。彼にとって、この任務はヴァルドール家の影響力をさらに強化するための一歩に過ぎなかった。彼はこの機会を逃すまいと心に決め、エドモンドとともに計画を練り直し始めた。「まずは、信頼できる情報源を通じて、貴族社会にさりげなく話を広めましょう。そして、徐々に民衆の間にもその噂が届くように仕向けます」

エドモンドは満足げに微笑みながら、ジュリアンの言葉に耳を傾けた。「良い策だ。だが、貴族たちの中にはまだクレスウェル家に対する信頼を持つ者もいる。そのため、いくつかの同盟者を個別に説得し、我々に協力するよう促す必要がある」

ジュリアンはその指摘に応え、次の手順を明確にした。「それならば、まずレオニダス家とアレクトス家の当主に接触します。彼らはクレスウェル家との関係が深いが、利益を優先する性質も知っている。私が説得し、こちらに引き込んでみせます」

その夜、ジュリアンは各邸宅へ使者を送り、慎重に会合を設けた。彼は精緻に作り上げた偽の情報を持ち出し、まるで真実であるかのように伝え始めた。言葉は冷静で、決して感情を交えず、客観的な事実のように語った。「クレスウェル家は、危険な集団と関わっている。私たちが事前に手を打たねば、彼らの影響力は我々にまで及ぶかもしれない」

各貴族たちは驚き、困惑した表情を浮かべる者もいれば、懐疑的な目でジュリアンを見つめる者もいた。それでも、彼は動じることなく次々と証拠を示し、冷静に、そして巧妙に、疑念を彼らの心に植え付けていった。「今動かなければ、彼らの陰謀が我々全体に及び、取り返しのつかない事態になる可能性があります」

エドモンドとの計画通り、ジュリアンは貴族たちの疑念を煽りながら、その背後でドレヴィス家とヴァルドール家が同盟者として動いている姿を見せた。彼らは慎重に、あくまで仲介者として行動することで、自身が直接的な攻撃者である印象を避けた。そして、次第に貴族たちの間に「クレスウェル家は危険である」という共通認識が形成され始めた。

夜が更ける頃、ジュリアンは静かに屋敷に戻り、書斎の椅子に深く腰を下ろした。「第一段階は成功だ」と、彼は自らに言い聞かせるように呟いた。クレスウェル家への不信感は確実に広がり始めていた。しかし、彼は同時に、この陰謀が完全に成功するまで油断はできないことを痛感していた。

彼の視線は暗闇の中、書斎の窓の外へと向けられた。「次は、民衆だ。彼らにも同じ物語を語らねばならない」ジュリアンは再び冷静な表情を取り戻し、新たな段階に向けた計画を練り始めた。エドモンドとの協力のもと、彼らの計略は次第に深まっていく。