リディア・クレスウェルが極秘任務で霧の峡谷へと旅立ってから数日が経過した。彼女の傍らには、凄腕の解読者であり、静かな忠誠心を持つイヴァン・ザレスキーがいた。彼の任務は、古代文字や呪文が封印された場所での解読作業を支援することであり、リディアがオーブの位置を確実に把握できるよう手助けすることだった。
霧の峡谷での探索 峡谷の奥深く、リディアとイヴァンは薄暗い迷路のような道を進んでいた。霧が立ち込め、道筋さえ不確かになる中、リディアはイヴァンの冷静な判断に支えられていた。古代文字が刻まれた石碑が道の途中に現れると、イヴァンはすぐに解読を始めた。
「この文字は、ルーン・オーブの存在を警告しているもののようです。封印されし力が放たれれば、持つ者に莫大な力が宿ると記されている……」イヴァンは一言一言噛み締めるように話した。
「つまり、私たちが探すべきものが近いってことか」リディアは決意を新たにしたように頷く。
「ただ、ここからは道が複雑だ。護符の反応を頼りに進むべきだろう」イヴァンが短く提案し、二人は再び進み始めた。
不可視の危機 探索が進むにつれ、リディアたちは峡谷の奥へと進入していったが、次第に異変が起こり始めた。霧の中に影が揺れ動き、周囲の気配が不穏なものに変わっていく。リディアは剣を構え、イヴァンも解読作業を一時中断し、緊張の中で周囲を警戒した。
「どうやら、月の使者の手先が私たちを追っているようだな」リディアが小声で警戒を呼びかける。
イヴァンは瞬時に状況を把握し、無駄のない動きで退路を確保しようとした。「リディア、少しでも時間を稼ぐために一人で突破するんだ。ここは私が引き受ける」
「それは無茶だ、イヴァン。あなた一人では……」
イヴァンは目を細め、リディアの目を見据えた。「私は解読者だ。護衛や戦いは君の役目だと理解している。私がここで少しでも引きつけていれば、君はオーブの封印を見つけられるはずだ」
最後の言葉 イヴァンは落ち着いた動作でリディアを促し、短い別れの言葉を告げた。「リディア、任務を全うすることが君の使命だ。そして、それが私にとっての最良の貢献だ」
リディアは一瞬ためらったが、イヴァンの意思を尊重し、護符を握りしめながら進むべき道を進んだ。背後から聞こえてくる戦闘の音が次第に遠ざかり、彼女の心にはイヴァンへの感謝と、彼を犠牲にして進むことへの痛みが残った。
任務の続行 イヴァンが囮となってくれたおかげで、リディアはさらに奥深く進み、ルーン・オーブが封印された場所の手がかりを発見する。しかし、彼女の心は暗い霧がかかったように晴れず、イヴァンの不在が胸を重く締め付けた。
「ありがとう、イヴァン。あなたの犠牲は無駄にはしない……」リディアはひそかに誓いを立て、再び前進した。