姉の意志を継ぐ者

エリーナは一人、自室の窓辺に立ち、じっと庭を見つめていた。アレクサンドルが訪れてからというもの、彼が語った「黎明の翼」という言葉が、彼女の頭の中を離れなかった。姉リディアが夢中になり、失踪するまでの間、自らの命をかけて守ろうとしていたもの。その意志の強さに、エリーナはかすかな嫉妬と敬愛を覚えていた。

「私にも何か、できることがあるはず……」

心の中で呟いたその瞬間、エリーナは幼い頃、姉と交わした何気ない言葉を思い出した。

「お姉様、なぜそんなに剣に夢中なの?」

小さな頃、リディアにそう尋ねたことがあった。あの時、姉は困ったように笑って、「守りたいものがあるからよ」とだけ答えた。その表情が真剣だったのを、エリーナは今でも鮮明に覚えている。子どもだったエリーナにはその意味がよく分からなかったが、姉にとって「守りたいもの」とは、家族だけではなく、自分自身の誇りでもあったのかもしれない。

「私も、姉様のように強くなりたい……」

エリーナの中で、姉への思いが決意に変わっていくのが分かった。それはただ姉を追いかけるためのものではなかった。リディアが黎明の翼の一員として歩んだ道のりを、自分も力を尽くして支え、何らかの形で完結させたいという純粋な意志がそこにはあった。

エリーナは静かに立ち上がり、胸の前で小さく拳を握りしめた。「私は必ず、リディアの意志を引き継ぐ。そして、お姉様が残したものを守り抜いてみせる……」

エリーナの瞳には、強い光が宿っていた。その決意は、これから彼女が背負っていく重責の始まりであり、未来へと続く新たな道の一歩だった。