エリーナは、一人で広いクレスウェル家の屋敷を歩いていた。かつての賑わいが嘘のように静まり返り、周囲にはかつての栄光を思い出させるだけの朽ちた家具や古びた絵画が並んでいる。彼女は一度立ち止まり、壁に掛けられた家族の肖像画を見つめた。そこには若き日の母アンナと父ガイウスが写り、まだ幼かったリディアとレオン、そして自分が笑顔で並んでいた。エリーナの心に、何かがじわりと湧き上がってくる。
「本当に、この家族の未来はどうなってしまうのだろうか……」エリーナは思わずそうつぶやく。
そこに、静かな足音とともに兄のレオンが現れた。彼の表情は常に冷静で毅然としているが、その目には深い苦悩と疲労の色が見え隠れしていた。レオンはエリーナに微笑みかけ、彼女の肩に手を置くと優しく言った。
「エリーナ、お前も気にしているのか。この家の未来のことを……」
エリーナは頷き、小さくため息をつく。「お兄様、リディアお姉様がいなくなってから、家がますます寂しく感じるの。皆、何かを背負いながらも一人一人違う方向を見ているようで……」
レオンはエリーナの言葉に耳を傾け、少し考え込んでから話し始めた。「確かに、我々の家族は試練に直面している。父上も母上も、クレスウェル家のために奔走しているが、時に無理をしているように見える。俺も、リディアがいなくなってから、この家族が一層バラバラになるのではないかと不安に感じている」
エリーナは兄の言葉に共感しつつも、自分なりに家族を支えるべきだと決意を新たにしていた。「だからこそ、お兄様やお父様、お母様が頑張っている今、私も少しでも助けになりたいと思ってるの。リディアお姉様みたいに剣を振るうことはできないけれど、家を守りたいという気持ちは同じ」
レオンはその言葉に少し驚きながらも、エリーナの成長に感慨を覚えた。「エリーナ、お前は強くなったな。俺たちはそれぞれに役割を持ち、この家を守っていく。だが、一人で背負わなくてもいい。家族がいる。だからこそ、支え合い、力を合わせて乗り越えなければならないんだ」
エリーナはレオンの励ましに感謝し、微笑みながら頷いた。そして、再び家族の肖像画を見上げる。「リディアお姉様が帰ってきたとき、少しでも家が良い状態であるようにしたいの……。お兄様、私もこの家族の一員として、できることをしていくわ」
レオンもエリーナに同意し、彼女の肩を軽く叩いた。「それでいい。お前の気持ちは、きっと皆にも伝わるだろう。俺も、父上と母上に協力しながら、この家族を守るつもりだ」
こうして、エリーナとレオンは家族の未来のために、それぞれの思いを胸に抱きながら、クレスウェル家の再建を見据えていくのだった。