カストゥムの喧騒がやや静まりつつある夕方、アレクサンドル・ヴァン・エルドリッチは市場の一角に腰を据えていた。商人や旅人が行き交う中、彼の鋭い眼差しは人々の間をすり抜けるように漂う噂や小声に注意を払っていた。彼が追っているのは、エリディアムから密かに持ち込まれたという古代の遺物にまつわる噂だった。盗賊団が手に入れたその遺物には強大な魔力が宿っていると伝えられているが、その実態を知る者は少ない。
あるとき、アレクサンドルの隣の商人が何気なく話し始めた内容が彼の耳を引いた。「あの遺物はただの装飾品じゃないって話だ。手に入れた者に不死の力を与えるって、そんな戯言を信じるやつもいるがな」
アレクサンドルは無言で頷きながら、その商人の言葉に注意深く耳を傾けた。不死の力など荒唐無稽に思えたが、古代の遺物が強大な力を秘めている可能性は決して無視できない。彼は自然な動作で商人に近づき、何気ない会話を始めた。
「最近、盗賊団の動きが活発らしいですね。この市場に何か仕入れに来たのかもしれませんが、それにしても物騒です」彼がそう促すと、商人は声をひそめ、得意げに話し始めた。
「そうだな。ここだけの話、あの盗賊団はただの荒くれじゃない。頭には魔術師がついていて、彼らはただの宝飾品や金を狙っているわけじゃないらしい。奴らが探しているのは、もっと価値のある『何か』さ。あんたも気をつけることだ」
アレクサンドルの心に警鐘が鳴った。魔術師が盗賊団に加わっているとなれば、遺物の話はただの噂ではないのかもしれない。彼は市場を後にしながら、ふと自分の動機を再確認していた。誰よりも遺物の秘密に迫り、その力がカストゥムやエリディアムにもたらす影響を探るべきだと感じていたからだ。
市場の裏路地に向かいながら、アレクサンドルの心には様々な思いが去来した。古代の謎を追い続けるうちに、真に守るべきものが何なのか自問することが増えていた。盗賊団を追うことで名を上げるだけでなく、彼はこの遺物に隠された真実に強く引かれていたのだ。
彼はその夜、遺物に秘められた力が人の手に渡る危険性を思い、自らの意志で動く決意を新たにした。