崩れゆく防壁

ヴァルカス・ヘルビウスは、薄暗い部屋の中央に立っていた。蝋燭の弱々しい光が、彼の険しい顔を照らし出している。周囲には他の傭兵団の代表者たちが座り、緊張感が漂っていた。彼らはクレスウェル家と契約していたが、最近の動きに対して疑念を抱いていた。ヴァルカスはその不信感を煽り、自分の目的を達成しようと心を決めていた。

「皆、わかっているはずだ。クレスウェル家はもう終わりだ」ヴァルカスは冷静な声で語り始めた。「彼らは防衛を強化しているが、内情を知っている者から見れば、ただの見せかけに過ぎない。実際、クレスウェル家は月の信者との陰謀に巻き込まれ、もはや防衛の力は失われつつある」

他の傭兵たちは眉をひそめたが、誰も反論しなかった。彼らもクレスウェル家の不穏な動きを感じ取っていたが、具体的な証拠をつかめていなかった。ヴァルカスは続けて言葉を重ねた。「クレスウェル家と我々の契約を維持することは、今やリスクにしかならない。彼らが倒れれば、我々も巻き添えを食う可能性が高い」

ヴァルカスは、冷静に彼らの目を見つめ、説得するように語りかけた。「他の傭兵団も、クレスウェル家との契約を解消し始めている。ここで防衛協定を破棄し、私たちも新たな勢力に加担すれば、利益と安全を確保できる」

一人の傭兵団の代表が口を開いた。「しかし、クレスウェル家は我々に多大な恩恵を与えてきた。今裏切れば、その報いが待っているのではないか?」

ヴァルカスは微笑み、揺るぎない自信を見せた。「確かに。しかし、今の彼らには反撃する力はない。私が保証する。我々はクレスウェル家の防衛計画を熟知しており、それを活かせば、何の抵抗もなく守備を崩壊させることができる。他の傭兵団と協力し、我々が新たな秩序を築くのだ」

その言葉に、代表たちは顔を見合わせ、考え込むような表情を見せた。ヴァルカスは彼らが揺れているのを見て、さらに攻める。「今動けば、新たな勢力からの報酬は莫大だ。もしここで迷い、クレスウェル家に忠誠を誓い続けるならば、後に残るのは何もない」

しばしの沈黙の後、一人がうなずき、それに続いて他の代表たちも同意を示した。ヴァルカスはその反応を見て、心の中でほくそ笑んだ。「決まりだな。我々は新たな時代の先駆けとなる。今すぐ、クレスウェル家の守備を崩し、新たな同盟を結ぶ準備を始めよう」

ヴァルカスは静かにその場を後にし、陰謀が形になりつつあることに満足感を覚えた。彼は自分が動かす陰謀の歯車が、着実にクレスウェル家を崩壊へと導いていることを確信していた。そして、他の傭兵団との連携により、彼はその過程で最大限の利益を得るつもりであった。

「防衛の要が崩れれば、あとは容易い。これでクレスウェル家の命運は尽きた」彼はつぶやき、月明かりの下、次の手を思案しながら夜の闇へと消えていった。