エリディアム帝国再建の計画は、各地での交渉を経て少しずつ形になりつつあった。アレクサンドル・ロマリウスたちはヴァルレギア王国やエリディアム北方など各地を奔走し、重要な貴族たちの誓約を得るために尽力していた。
この日は、エリディアムのある領地で重要な会合が開かれた。カリム・アレクトス、レオヴェリック・オスベリック、ガレオン・エヴァンドといった主要な貴族たちが、それぞれの拠点から念話や信頼する使者を通じて参加していた。一部の代表者は直接集まり、他の者たちは遠隔で交渉に応じる形だった。
アレクサンドルは、広間に集まった数少ない貴族たちを見回しながら口を開いた。「皆様、私たちは各地で集めた意見を元に、ここで合意を形成したいと思います。セリーヌ様を擁立することは、この国にとって必要不可欠な決断です」
彼の言葉に、広間には緊張が走った。現体制維持を支持する貴族たちや、変革に懐疑的な者たちは、まだ完全には納得していない様子だった。
「変革は理解しますが、どのように私たちの家系が守られるのか、明確な保証が必要です」ガレオン・エヴァンドが静かに言った。
アレクサンドルは深く頷き、誓約書を取り出してテーブルの上に広げた。「この誓約書には、各家の自治と権利が新たな秩序の中でも確実に守られることを明記しています。そして、セリーヌ様がその秩序を公正に導くことを誓います」
広間にいる貴族たちは、誓約書をじっと見つめた。カリム・アレクトスが手に取り、内容を読みながら低い声で言った。「この文書が守られる限り、我が家は協力を惜しまない」
レオヴェリックも黙ったまま署名に応じ、広間の緊張が少しずつ和らいでいった。
誓約書の取り交わしが一段落した瞬間、扉が音もなく開いた。セリーヌ・アルクナスが姿を現し、静かな足音で広間の中央に歩み寄った。彼女の姿には威厳と温かみがあり、自然と全員の視線が集まった。
「皆様」セリーヌは柔らかな微笑みを浮かべ、一礼した。「今日は、この国の未来を共に考えるために集まっていただいたことに、心から感謝します」
その声には力強さと誠実さがあり、聞く者たちの心を引きつけた。
「私たちは、これから多くの困難に立ち向かわなければなりません」セリーヌの表情は少し険しくなった。「しかし、皆様と共に歩むことで、必ず新しい未来を築けると信じています」
レオヴェリックが問いかけた。「セリーヌ様、その信念を支えるものは何ですか?」
セリーヌは真っ直ぐに彼を見つめ、静かに答えた。「それは、この国の民への愛です。私は、この地に生きるすべての人々が、誇りを持って未来を語れる国を作りたい。貴方たちの力が必要なのです」
彼女の言葉に、広間の空気が静かに変わった。ガレオン・エヴァンドが立ち上がり、深く頭を下げた。「その覚悟、見せていただきました。私たちも全力を尽くします」
その日、誓約書が正式に取り交わされ、セリーヌの皇帝擁立に向けた基盤が確立した。広間には希望の光が満ち、未来を切り開く一歩が確実に踏み出されたのだった。