クレスウェル家の館は、かつての華やかさを失い、沈黙が支配する場所となっていた。レオン・クレスウェルは馬上から、久方ぶりにその館を目にし、複雑な感情に包まれた。彼が去ったときとは異なり、クレスウェル家は今や没落し、以前の領地は縮小し、農場だけが辛うじて残されていた。
館の玄関に足を踏み入れると、リディアとエリーナが迎えてくれた。リディアは穏やかな笑顔を浮かべていたが、その背後にはかつての明るさとは異なる決意が見え隠れしていた。彼女は家族を守るために、強くならざるを得なかったのだろう。エリーナは兄を見つけると駆け寄り、無邪気に笑ったが、彼女の笑顔もどこか不安そうだった。
「おかえりなさい、お兄様」リディアの落ち着いた声が響いた。レオンは微笑み返しながらも、その声の中に隠された苦労と決意を感じ取っていた。
夕暮れの食卓で、家族は久々に顔を揃え、静かな時を過ごした。レオンは、遠征先での出来事や、そこでの苦闘を語らなかった。ただ、リディアが時折見せる不安そうな表情や、エリーナが兄を見上げる瞳が、彼に言葉にならない重さを伝えていた。
夕食後、リディアと二人きりになったとき、レオンは意を決して問いかけた。「クレスウェル家は、こんなにも変わってしまったんだな……。僕がいない間に、いろいろとあったんだろう?」
リディアは静かに頷き、兄の目を真っ直ぐに見つめた。「でも、私たちはまだここにいるわ。お兄様が戻ってきてくれたから、少しずつでも取り戻せる。クレスウェル家はまだ終わっていないわ」
その言葉に、レオンは救われた気がした。遠征先での失望と無力感が少しずつ解けていくのを感じた。彼は改めて心に誓った。「必ず、クレスウェル家を立て直す。僕ができる限りのことをして、もう二度と家族を傷つけさせない」
その夜、レオンは星空を見上げながら、自分がこれから果たすべき使命を胸に刻んだ。家族とともに歩む未来への決意が、彼の心を静かに熱く燃やし始めた。