フォルティス平原にひっそりと佇むアルヴォラの村。どこか懐かしさを感じさせるこの村で、アレクサンドル・ヴァン・エルドリッチは日々を過ごしていた。村人たちは互いに支え合い、村を守るために労を惜しまない、平和で穏やかな暮らしを送っている。
そんな中、アレクサンドルは村外れの小屋に住む隠者、セドリック・ヴォルストの元を度々訪れていた。セドリックは村で一目置かれる知識人で、彼のもとにはあらゆる人々が助言を求めにやって来る。しかし、セドリックが本当に心を開いて接していたのは、若くして鋭い洞察力と好奇心を持つアレクサンドルだけだった。
ある日、夕陽が草原を赤く染める頃、アレクサンドルはいつものようにセドリックの小屋を訪れた。小屋に入ると、セドリックは煙草を吹かしながら、すでに彼の訪問を待っていたかのように微笑んでいた。
「よく来たな、アレクサンドル。今日は何を聞きにきた?」と、静かな声でセドリックが尋ねた。
「この村は平穏で、美しいです。でも、伯父から聞く貴族や商人の世界は、村とは全く違う……。知識と力を持たずして、あの世界で生き抜くのは難しいと聞かされてきました。それでも、村の未来を考えると、ただここで静かに暮らしているだけではいけない気がするんです」
セドリックは黙って彼の言葉に耳を傾け、しばらくしてから話し始めた。「その感覚は、間違っていない。だがアレクサンドル、覚えておくがいい。力と知識は必ずしも人を幸せにはしない。多くの者がそれを求め、そして迷い、時に道を踏み外す。私もかつてはそうだった」
その言葉には、隠者としての孤高な生活の影に秘められた過去が感じられ、アレクサンドルはそれ以上尋ねることをためらった。
だが、セドリックはふっと微笑み、優しく続けた。「それでも、お前が進むべき道を知りたいならば、この村を一歩出て、もっと広い世界を見ることだ。どんな困難が待ち受けていようとも、その目で確かめ、心で感じろ。それがこの村を守り、未来を切り拓くための本当の第一歩だ」
その夜、アレクサンドルは心の中で決意を固めた。自分が本当に進むべき道を知るためには、そしてアルヴォラの村を守るために、外の世界へ出ていく必要がある。小さな村で生まれ育った彼の心には、初めて見る世界への期待と同時に、未知の領域への不安が混ざり合っていたが、それでも確かな覚悟を持って旅立つ決意をしたのだ。