結婚式の準備が最高潮に達しつつあった灰燼の連盟の本拠地に、一通の密書が届いた。その内容は、式典の当日に式場を襲撃する計画を匂わせるものだった。手紙には具体的な日時や襲撃者の詳細は記されていないが、内容の生々しさからして信憑性が高いことは明らかだった。
アレクサンドルは密書を手に、式場の地図を広げた机の前に立っていた。彼の隣では、エリオットとエリーナが厳しい表情で並んでいる。静まり返った部屋の中で、アレクサンドルが低く語り始めた。「これは単なる脅しではないだろう。結婚式そのものが計画の象徴になりつつある以上、敵にとっても無視できない存在だ」
セリーヌはその言葉を聞き、冷静に口を開いた。「この結婚が私たちの計画における転機であることは、彼らも理解しているのでしょうね。それでも、この式を止めるつもりはありません。必要ならば、どんな脅威にも立ち向かいます」
その声には迷いがなかったが、彼女の隣に立つレオニードの目は険しい。「式場を守るには、具体的な対策が必要だ。私の部隊に警備を強化させる」
アレクサンドルが頷き、地図の上を指差した。「こちらが式場の周辺。襲撃者が潜む可能性が高い地点はここだ。エリオット、エリーナ、情報網を使ってこれらの地点の動きを探れ。妨害が事前に防げれば、計画をさらに有利に進められる」
翌日、エリオットとエリーナは情報収集のために動き出した。接触した商人や旅人たちの中には、何者かが武器を調達しているという噂を耳にしている者もいた。「これが単なる過激派の仕業ならいいが……」エリオットは呟き、顔をしかめた。「どうもそれだけではないように感じる」
一方、レオニードは部隊を集め、式場の周辺防衛のための計画を立案していた。彼の指示は的確で、部下たちは迷いなく準備を進めていた。「敵が狙うのは混乱だ。彼らを迎え撃つ準備を怠るな」レオニードは部下たちに冷静に指示を出しながら、内心ではセリーヌへの不安を募らせていた。彼にとって、この結婚は国の未来だけでなく、セリーヌという女性を守るための誓いでもあった。
式の準備に追われる中、アリアナはアレナの念話を介して仲間たちと連絡を取り合いながら、招待客への対応を進めていた。「もし襲撃が起これば、貴族たちの安全も確保しなければならない」彼女はそう考えながらも、不安な表情を隠しきれなかった。
そんな彼女を見たヴァレンティナが、静かに声をかけた。「アリアナ、君が動揺していては、周囲にも影響が出る。落ち着いて準備を進めよう」その言葉に、アリアナは小さく頷いた。「ありがとう、ヴァレンティナ。やれるだけのことはやるわ」
数日後、エリオットが新たな情報を持ち帰った。月の信者の過激派が、結婚式の妨害計画に関与している可能性が高いという。「だが、これを操っているのはもっと大きな存在かもしれない」彼はそう付け加えた。「彼らが恐れているのは、結婚そのものではなく、結婚がもたらす新しい秩序だ」
アレクサンドルはそれを聞き、静かに頷いた。「だからこそ、この式を成功させなければならない。それが、この国の未来に繋がる」
セリーヌもその言葉に頷き、毅然とした表情で言った。「私たちが団結してこの結婚を守ることが、彼らの恐怖を打ち砕く唯一の方法です」
結婚式を目前に控えた灰燼の連盟の本拠地は、再び静寂に包まれていた。しかし、その裏では、仲間たちがそれぞれの役割を全うし、迫りくる脅威に備えていた。この結婚式が成功することで、新たな時代の幕が開く。だが、その未来を切り開くためには、まだ多くの試練が待ち受けているのだった。