アレナはカリスが療養中の部屋に向かった。重厚な木製の扉を軽く叩くと、奥から落ち着いた声が返ってきた。「どうぞ」。アレナは扉を押し開け、そこに横たわるカリスの姿を目にした。彼の顔には微かな疲れが残っていたが、その瞳はいつもの鋭さを保っていた。
「カリス、お加減はいかがですか?」とアレナは優しい声で尋ねた。彼女の心には、カリスが自分を守るために負った傷への罪悪感と感謝の念が入り交じっていた。
カリスは薄い笑みを浮かべた。「思ったよりも良いさ。でも、あなたがここに来るとは思わなかった」と、彼の声は静かだが、どこかほっとしたようでもあった。
アレナは彼の横に腰を下ろし、真剣な表情で話し始めた。「あなたが私を守ってくれたおかげで、今こうして活動を続けることができています。本当にありがとう。でも、あなたが負傷してからずっと心配で……お見舞いに来るのが遅れてしまって申し訳ありません」
カリスは軽く首を振った。「守るべき人を守っただけだ。それに、こうして来てくれたことだけで十分だよ。君の無事が何よりだ」
アレナの目に少し潤いが浮かび、彼女は頬に触れながら微笑んだ。カリスの冷静さと優しさに触れるたび、自分も彼のように強くありたいと思う気持ちが湧き上がる。カリスは彼女をじっと見つめ、その目には自分を誇りに思うような光が宿っていた。
「でも、私ももっと強くならなければ。あなたが再び無理をすることがないように」アレナは拳を軽く握り、決意を込めた声で言った。
カリスは苦笑いを浮かべ、「それは頼もしいな。次は一緒に戦おう」と言い、右手を差し出した。アレナはその手をしっかりと握り返し、二人の間に静かな約束が生まれた。
部屋を後にするアレナの背中を見送りながら、カリスは小さくつぶやいた。「本当に、あのとき守るべきだったのは彼女でよかった」その言葉は、彼の胸に新たな希望と責任感を灯していた。