エリーナ・クレスウェルが幼かった頃、クレスウェル家は有力な貴族としてエリディアムの人々から尊敬を集め、領地を広く治めていた。立派な屋敷は磨き抜かれた石造りの壁に囲まれ、豪奢な家具や歴史を感じさせる武具が所々に飾られている。広い中庭では常に兵士たちが訓練に励み、騎士団の指導も行われていた。
幼いエリーナは、そんな屋敷の中を遊び回る活発な少女だったが、何よりも憧れていたのは、姉リディアの姿だった。リディアはクレスウェル家の長女として、幼い頃から剣術や戦略を学び、責任感と強い意志で家名を背負っていた。彼女が稽古に励む姿は、エリーナにとって何よりも誇らしく、まぶしい存在だった。
ある日、エリーナは姉の姿を見つけるために中庭へと向かった。そこでは、リディアが侍女たちや近衛兵の注目を集めながら、真剣な表情で剣を振るっていた。豪華な刺繍が施された軽装の剣士服をまとったリディアは、気高く、そして強かった。エリーナは庭の片隅からその姿を見つめ、幼いながらも心に決めた。
「私も……お姉さまのように強くなるんだ」エリーナの瞳には、決意の光が宿っていた。
練習を終えたリディアが水を飲んでいると、エリーナが駆け寄ってきた。「お姉さま!」と勢いよく声をかけ、彼女の手を取り、真剣な眼差しで言った。
「お姉さまのように剣士になりたい!私も強くなって、クレスウェル家を守れる人になりたいの!」
リディアは、意外そうに少し驚いたが、すぐに優しく微笑みを浮かべた。「エリーナ、本当に強くなりたいの?」
エリーナは力強く頷いた。「うん!だって、お姉さまは皆に頼られてるし、守ってる。私もそうなりたいの!」
リディアはその真剣な目に、自分の小さな頃の姿を見た気がした。彼女はエリーナの肩に手を置き、優しく言った。「強くなるには努力と忍耐が必要よ。剣は軽いものではないし、クレスウェル家を背負うことも簡単じゃない。でも、エリーナならきっと立派な剣士になれるわ」
「私、頑張る!」エリーナは嬉しそうに声をあげ、幼いながらも心から誓った。その小さな拳には、大きな決意が込められていた。
こうして、エリーナ・クレスウェルは剣士を目指す決意を固めた。この瞬間が、彼女の人生において大きな転機となり、クレスウェル家を支える剣士としての道を歩み始める原点となった。エリーナの純粋な思いと意志の強さが、この一歩を踏み出すきっかけとなったのである。