カストゥムの薄暗い通りを歩きながら、アレクサンドルは心の奥に小さな焦りを感じていた。リディアを探し続け、行き詰まりが続いている中で、彼の肩にはますます重い責任がのしかかってきている。今日一緒に来ているエリーナ・クレスウェルもまた、そんなアレクサンドルと同じ重荷を感じているだろう。
彼らは、レティシアの助言を受けて「アレナ・フェリダ」という名の探偵を訪ねていた。アレナはただの探偵ではなく、カストゥムでも評判の高い超能力者だと聞くが、その評判には少しの警戒も必要だ。アレクサンドルがエリーナに視線を向けると、彼女は表情を強張らせたまま静かに頷いてみせた。
「大丈夫だよ、きっと……」と、アレクサンドルは小声で言いながらも、気を引き締めたままアレナの事務所へと向かった。
アレナ・フェリダは、事務所の窓辺で、古びた本を眺めながら感じていた。訪問者の気配が外から近づいている――それは強い決意と共に、何か深い思いを抱えた者たちの気配だ。彼女はいつも以上に心を集中させながら、その訪問者の意図を探っていた。やがて、ドアをノックする音が響いた。
「どうぞ」アレナが扉を開けると、そこにいたのはアレクサンドルとエリーナだった。アレナは二人を観察し、二人が抱える思いの重さを感じ取りながら、静かに席を促した。
エリーナは事務所の中に足を踏み入れると、少し緊張してアレナに目を向けた。彼女の冷静で鋭い視線は、まるで自分の内面を見透かそうとしているように感じられた。普段は冷静でいようと心掛けているエリーナも、この瞬間ばかりは心がざわついた。
「アレナさん、私たちはリディアを探しています。姉は……黎明の翼にとって大切な存在です」と、エリーナはしっかりとした声で伝えた。彼女の言葉には、家族を守りたいという強い気持ちが込められていた。
エリーナが自分の言葉で想いを伝える様子に、アレクサンドルは心の中で安堵を覚えた。アレナの厳しい視線に動じることなく、自分の意思をしっかりと伝えているエリーナがそこにいる。
「リディアが失踪してから、私たちは彼女を探し続けてきました。しかし、このままでは手がかりも限られていて……」アレクサンドルは慎重に言葉を選びながら、リディアを探し出すために必要な情報の重要性を説明した。
アレナは彼らの話を静かに聞きながら、その熱意をひしひしと感じていた。アレクサンドルの焦燥とエリーナの家族を守る決意――二人の想いが、どれほど強いかを目の当たりにしていた。アレナは、冷静な声で口を開いた。
「リディア・クレスウェルという人物があなたたちにとってどれほど大切か、分かったわ。私の力を使って、できる限りのことを協力する。ただし、念話による遠隔地への通信は、私にとっても集中力を要する仕事になるわ」
彼女の言葉に、エリーナが真剣な表情で深く頷いた。アレクサンドルもまた、アレナの力を頼ることの責任と覚悟を決めた表情を浮かべている。
「ありがとう、アレナさん」とエリーナが小さな声で礼を述べると、アレナは一瞬だけ微笑んだ。緊張感の中にも、新たな信頼の芽生えがあったのかもしれない。
こうして、アレナ・フェリダはリディア捜索への協力を約束し、アレクサンドルとエリーナは彼女の力に支えられることになった。