ヴァルカス・ヘルビウスの小屋に沈黙が流れていた。数日前、ミカエル・ヴァレンが訪れ、彼に帰参を求めた。ヴァルカスはその言葉に心を揺さぶられたまま、今も葛藤していた。かつてクレスウェル家を守るために戦った自分と、その家を裏切った自分。その両方の思いが胸中を錯綜していた。
突然、扉が音もなく開いた。ミカエルが再び現れた。「ヴァルカス、考えてくれたか?」声には焦りはなく、誠実さだけが滲んでいた。
ヴァルカスは深くため息をつき、目を細めてミカエルを見つめた。「なぜお前はそんなに必死なんだ?俺は裏切り者だぞ。信用できる理由がどこにある?」
ミカエルはその質問に静かに応じた。「君がかつて守り抜いたクレスウェル家への忠誠、それを知る者がいるからだ。過去の選択は誰にでもある。重要なのは、今この時に何を選ぶかだ」
その言葉にヴァルカスは黙り込んだ。かつて戦場でともに血を流した仲間の姿、クレスウェル家の穏やかな日々の光景が彼の心に浮かんだ。だが、その思いに再び裏切りの痛みが押し寄せる。「過去は変えられない、ミカエル。あのとき、俺は自分の家族や部下たちを守るために選んだんだ」
「わかっている」とミカエルは頷いた。「だからこそ、再び立ち上がる意味がある。君が戻れば、それはクレスウェル家にとって大きな希望だ。ガイウス様もレオン様も、君が帰ってくることを望んでいる」
ヴァルカスは拳を握りしめ、やがてその力を緩めた。言葉は出なかったが、目には微かな涙が光っていた。「少し時間をくれ、ミカエル」
ミカエルはその目に確信を見出し、優しく微笑んだ。「もちろんだ、ヴァルカス。君が決断する日を、我々は待っている」
その場に残されたヴァルカスは、過去の影を振り払う決意とともに、新たな一歩を踏み出す準備をしていた。