マリアナ・ロマリウスは、アレクサンドル・ヴァン・エルドリッチへの思いを抱え、悶々とした日々を送っていた。彼とは遠く離れた地におり、すぐに会える距離ではない。彼女は日々農場の仕事に没頭しようとしたが、彼のことが頭から離れなかった。思いがけず心が彼へと引き寄せられていくことに、マリアナは自分を抑えきれなくなっていた。
そんなある日、彼女はついに決意を固め、両親に農場の管理を頼むことにした。彼女が仕事を投げ出すことはめったにないため、両親は驚いたが、彼女の真剣な表情を見て、何かを察したようだった。
家のリビングにて、父のアルベリクと母のエリゼが真剣な面持ちで彼女の話を聞いていた。
「マリアナ、お前がこんなことを言うなんて、珍しいな」アルベリクが驚きと心配が入り混じった声で問いかける。
マリアナは少し視線を落としながらも、真剣な表情で続けた。「分かっています。でも、どうしても今行かないといけないんです。大事な人に会うために」
エリゼは娘の手を取り、優しい眼差しで見つめた。「あなたがそれほど思い詰めているなら、私たちも力になるわ。でも、ちゃんと気をつけてね」
そのやり取りを見ていた妹のカトリーヌは、不安そうに姉を見上げた。「お姉様、大丈夫なの?何があったの?」
マリアナはカトリーヌに微笑みかけ、軽く彼女の頭を撫でた。「大丈夫よ、カトリーヌ。ちょっと大切な用事があるだけなの。お父さんとお母さんが農場を見てくれるから、何も心配しなくていいわ」
カトリーヌは納得しないように眉をひそめたが、姉の意志の強さに気づき、最後には小さく頷いた。「じゃあ、気をつけてね。帰ってきたらまた一緒に練習しようね」
マリアナは両親の許可を得て、旅支度を整え、アレクサンドルがいるカストゥムへ向かうことを決意した。農場は両親と従業員たちの支えがあれば問題ないことは分かっていたが、それでも心配する気持ちを抑えながら、旅立ちの準備を進めた。
カストゥムに到着したマリアナは、期待と緊張で胸が高鳴った。しかし、彼女がその地に足を踏み入れた時には、すでにアレクサンドルが別の場所へ向かって出発したあとだという情報が耳に入った。彼女はその知らせに一瞬足を止め、何とも言えない感情が胸に広がったが、再び歩みを進め、次の一手を考え始めた。
「ここまで来たのに、まだ会えないなんて……」マリアナは自分に言い聞かせるように呟いた。「それでも、私は諦めない」