揺れる心、決意の旅路

クレスウェル邸を後にしたアレクサンドルレオン、そしてエリーナの三人は、夕暮れ時の道をカストゥムに向けて進んでいた。道中で彼らはマリアナ・ロマリウスと出会い、偶然にも同行することになった。

しばらく歩くうちに、マリアナの人柄と情熱がレオンやエリーナの心に響き、二人ともすっかり打ち解けていた。マリアナの一途な想いが、アレクサンドルに対して向けられていることに誰もが気づいていた。

レオンはふと微笑みを浮かべ、何気ない調子でアレクサンドルに語りかけた。「アレック、もし君が嫌じゃなければ、マリアナさんと一緒になるのも悪くないんじゃないか?」


レオンがこう提案した背景には、彼自身の思いがあった。彼はクレスウェル家を誇りに思っているが、ヴァン・エルドリッチの名に対しては同じような価値を感じていない。アレクサンドルがその家名に縛られるべきかと問われれば、彼は即座に否定しただろう。

だが、そんな自分をどこかで嫌に感じていることも確かだった。クレスウェル家の名誉に誇りを持ちながら、他家の名に対する執着の薄さに、少しばかりの後ろめたさを抱いていたのである。


レオンの提案にアレクサンドルは驚きつつも、内心で彼の言葉を反芻していた。これまで彼はマリアナを仲間として見てきたが、この道中で彼女の想いと向き合った今、ここまで自分を想ってくれる彼女を突き放すのも気が引けていた。

ただし、マリアナはロマリウス家の長女であり、もし結婚するならアレクサンドルはヴァン・エルドリッチの家名を捨てて婿入りすることになる。それで本当にエルドリッチ商会を継ぐことができるのか、伯父オスカーが承諾してくれるのかが問題だった。

「それに……私が今から婿入りして商会の未来を担えるか、わからない」


エリーナもまた、マリアナに感銘を受け、アレクサンドルにそっと囁くように語りかけた。「アレックがそばにいると、マリアナさんはとても楽しそうですね。アレックにとっても、彼女は大切な方なのでしょう?」

その問いに、アレクサンドルは少しばかり照れくさそうに微笑みながら、「彼女が隣にいると、私もまた力を感じるよ」と言った。


アレクサンドルは自らの進むべき道を見据え、カストゥムに到着した後で伯父に直接相談することに決めた。これまでの彼にはない悩みではあったが、レオンやエリーナ、そして何よりマリアナの存在が新たな可能性を示してくれていた。

「この旅が終われば……今度は私自身が伯父に率直に思いを話すときだろう」

心に決意を抱き、アレクサンドルはカストゥムの街へと足を踏み入れた。