フィオルダス家の広間には重い空気が漂っていた。庭から差し込むわずかな陽光も、家族内で広がる不安を和らげることはなかった。マルコムの弟、セドリックは冷静な瞳で兄を見つめ、「兄上、今の状況ではリディアが何を考えているのか見極める必要があります。我々フィオルダス家の安全と信頼を守るためにも」と厳しい口調で言った。
マルコムは少し眉をひそめたが、すぐに穏やかな声で答える。「セドリック、分かっている。だが、リディアは単なる他家の者ではない。我々にとって大切な家族だ。彼女の行動は、クレスウェル家を守るためでもある。焦りや疑念から家族を裂くことは避けるべきだ」
周囲にいた家族の視線が交錯し、緊張が一瞬にして高まる。エドガー・フィオルダスはその場を見つめ、深い息をついた。「マルコム、セドリック、お前たちの言葉はどちらも一理ある。だが、家族の結束こそが何より重要だ。この状況で家族の絆が乱れれば、敵の思う壺だ」
マルコムは父の言葉にうなずき、弟に視線を戻した。「お前の警戒は理解している。だが、リディアの真意を疑うのはまだ早い。彼女が私たちに何を求め、何を守りたいと思っているのかを知ることが先だ」
セドリックは口を閉じ、一瞬逡巡の表情を見せたが、やがて頷いた。「わかりました、兄上。だが、目を離さないでください」
家族の間に生じたわずかな不協和音は、エドガーの重々しい声で一時的に静められたものの、心の奥底に残った疑念は消えなかった。フィオルダス家の中で揺れる忠誠心は、新たな試練への兆しを示しているかのようだった。