サラの事務所を後にし、カストゥムの街を歩きながらエリオットとエリーナは少し緊張を解いた空気の中にいた。夕陽が空を染め、街の影が長く伸びる中、二人は静かに並んで歩いていた。
「エリオットさん、サラさんに協力してもらえることになって本当によかったですね」エリーナは少し微笑みながら、そう言った。
「うん、サラは頼りになる人だから。本当に助かる」エリオットは真剣な眼差しで頷いた。彼は少し疲れているようにも見えたが、それでも安心した表情を浮かべていた。
エリーナは少し緊張しながらも、自分が同行を申し入れた理由について思いを巡らせていた。リディアの政略結婚の話を知ったときから、自分もいずれはそうなるのだろうと覚悟はしていた。しかし、今は――目の前のエリオットの姿が、どうしても心を揺らしていた。
「……エリオットさん、これからもカストゥムに拠点を置いて活動するんですよね?」エリーナはふと、そんな質問を口にした。
「そうだね。今はここが一番動きやすいし、アレックたちが戻るまで、やるべきことも多いから」エリオットは少し歩みを止め、エリーナの方を見た。その瞳には、彼女の気持ちに気づいているのかいないのか、穏やかな優しさが宿っていた。
エリーナはその視線に心がざわついた。彼のそばにいたい、支えたい、そう思ってしまう自分がいた。けれども、自分が抱える立場や家族の期待を考えると、この気持ちをどう整理すればいいのか分からなかった。
「エリーナ?」エリオットが優しく声をかけた。
「えっ……あ、すみません、ちょっと考え事をしてしまって」エリーナは慌てて目を逸らし、頬がわずかに赤らんだ。
二人はまた歩き出したが、その間もエリーナの胸の中では、エリオットへの想いと現実の板挟みの中で揺れる感情が渦巻いていた。エリオットと並んで歩く帰り道のひとときは、彼女にとってかけがえのない時間となったが、同時に彼にどう思われているのか、知りたいような怖いような複雑な気持ちが広がっていたのだった。