カストゥムの宿屋「蒼穹の翼」の一室。夜も更け、わずかに聞こえるのは通りを渡る風の音だけだった。アレクサンドルは窓辺に立ち、月明かりに照らされた街並みを見下ろしていた。彼の視線は遠く、まるで見えない何かを探しているようだった。
その静けさを破るように、リディアがゆっくりと口を開いた。「エリディアムの件、どうするつもり?」
アレクサンドルは黙ったまま視線を窓の外から戻し、皆を見渡した。エリディアムで起きている不穏な動き――月の信者による陰謀の噂や、各地で目撃された奇妙な異変。それらは単なる風聞ではなく、何か大きな出来事が動いている兆しであることは確かだった。しかし、彼の心には葛藤が渦巻いていた。なぜなら、この決断は仲間たちを危険な道へと導くものだったからだ。
「一度エリディアムに向かおうと思う」アレクサンドルの口調はいつになく厳粛だった。「ただの噂かもしれないが……放っておける話でもない。もし、この裏に何かが潜んでいるのだとしたら、それを確かめる必要がある」
エリオットはその言葉に少し驚きながらも、興味深げにアレクサンドルの顔を見つめた。「エリディアムの情勢が不安定になっているのは知ってるけど、僕たちが手を出すべきなのかい?危険が多すぎるかもしれない」
カリスは腕を組み、静かにうなずいた。「でも、私たちの力が必要とされているなら、黙って見過ごすわけにはいかない。私も行く」その言葉に込められた決意に、アレクサンドルは少し驚きを隠せなかったが、彼も同じ意志でこの場に立っていることを改めて自覚した。
「リディア、君はどうする?」アレクサンドルが問いかけると、リディアは彼の目をじっと見つめ、深呼吸をした。
「クレスウェル家を再興するためにも、この真実を知ることが必要だと思うの。過去に起きたことが私たちを繋いでいるなら、それを断ち切るために前に進むべきよ」リディアの言葉には強い意志が込められていた。彼女もまた、過去の因縁に向き合うため、この危険な道を選ぶ覚悟を決めていた。
アレクサンドルは仲間たちの顔を見渡し、決意を新たにした。「皆がそれぞれの覚悟を持ってくれるなら……エリディアムへ向かおう。私たち黎明の翼として、真実を確かめるために」
こうして、アレクサンドルたちは静かに決意を固め、再び新たな道を歩み出す準備を整えた。その夜、彼らの心には一つの炎が灯り、次なる旅への希望と不安が交錯していた。