新たな夜明けの兆し

式典の熱狂が少しずつ落ち着きを見せた頃、玉座の間ではセリーヌ・アルクナスが各地からの代表者と面会を続けていた。華やかな装飾に囲まれた部屋の中で、セリーヌは一人ひとりの声に耳を傾けていた。その表情は穏やかでありながらも、鋭い観察力を感じさせるものだった。

「北方の一部の勢力が統一に反発しているとの報告があります」レオニードが冷静に告げた。その言葉にセリーヌは眉をひそめることなく、静かに頷いた。「彼らの懸念を無視するわけにはいかないわ。それが正当な理由であるならば、話し合いで解決できるはず」

「ですが、もし過激派が動き出せば、話し合いだけでは収まりません」アレクサンドルが慎重な声で続けた。「特に国境地帯では、小競り合いがすでに始まっているとの情報も入っています。未開地域との境界は、いつの時代も不安定です」

セリーヌは深い息をつきながら視線を巡らせた。「国境地帯の紛争は、新たに築いた秩序を崩す危険があります。それを防ぐためには、早急に対応策を練らなければなりません」その声には冷静さだけでなく、わずかな覚悟が滲んでいた。


別の場面では、月の信者内部での分裂が新たな問題として浮き彫りになっていた。エリーナが報告書を片手に、セリーヌに進み出る。「月の信者の中でも、純粋な信仰を持つ者たちと、現世利益を求める者たちの間で軋轢が生じています。特に後者の一部が過激派と手を結ぶ可能性があります」

セリーヌは静かに頷きながら、エリーナの目を見た。「その分裂を埋めるためには、信仰の本質を取り戻さなければなりません。月はすべての人々に平等に恩恵を与える存在であるはず。そこに私たちが働きかける余地があると信じています」

彼女の言葉には、確固たる信念と未来への希望が込められていた。その場に居合わせた者たちは、自然とセリーヌに引き寄せられるような感覚を覚えた。


夜が訪れ、宮殿の一角にセリーヌの姿があった。彼女は広大な夜空を見上げながら、冷たい風に吹かれていた。その目に映るのは、暗闇の中に輝く月と星々。それは彼女にとって、これからの道を示す灯火のように見えた。

「これが始まりだ」セリーヌは静かに呟いた。その声は夜風に溶け込みながらも、自らの心に深く刻み込まれるようだった。課題は山積している。だが、彼女にはそれを乗り越える覚悟があった。仲間たちがいる限り、どんな困難も乗り越えられる――そう信じて。

彼女の背後には、アレクサンドル、レオニード、エリーナ、リディアたちの姿があった。それぞれが彼女の言葉を聞き、心の中で静かに誓いを立てていた。「この帝国のために、自分たちができることを果たそう」と。

夜空に輝く月が彼らを照らし、エリディアム帝国の新たな旅路が静かに、しかし確実に始まった。