結婚式は無事に終わりを迎えた。灰燼の連盟の本拠地に設けられた庭園は、祭壇を取り囲むように集まった貴族たちの祝福の声と拍手で満たされていた。セリーヌ・アルクナスとレオニード・バルカンの結婚式は、その象徴性から国中の注目を集め、出席した者たちに大きな印象を残した。
セリーヌは祭壇を離れながら、隣を歩くレオニードの手を軽く握った。彼女の顔には微笑みが浮かんでいたが、その目には疲れの中にも確固たる決意が光っていた。「この結婚が計画の一部であることを理解していても、それを支える皆の力がなければここまで来られなかったわ」
レオニードは彼女の言葉に静かに頷き、柔らかな声で答えた。「君の覚悟があったからこそ、皆がついてきたんだ。これからも、共に歩んでいこう」
その瞬間、彼らの周囲には多くの来賓が集まり、二人を称える言葉が次々と投げかけられた。ロマリウス家の代表やクレマン商会のセバスティアンが祝意を伝え、灰燼の連盟の仲間たちもその場で二人を支えるように立っていた。
夜になり、祝宴が始まった。貴族たちが歓談し、民衆に向けての演説が行われる中、セリーヌは祭壇の近くで一人静かに庭を眺めていた。そこへアレクサンドルが近づき、彼女の隣に立った。
「式は成功だ」アレクサンドルの言葉には満足感が滲んでいた。「だが、この結婚が象徴するのは始まりに過ぎない。帝国再建に向けて、これからが本番だ」
セリーヌは小さく息をつき、アレクサンドルを見上げた。「そうね。今日の成功が、私たちの計画を進めるための足がかりになってくれればいいけれど……」
その時、レオニードが二人の会話に加わった。「次のステップを考える前に、今日の成功を皆と共有しよう。皆がここまで支えてくれた。それに応えるのが私たちの役目だ」
宴が進む中、セリーヌは壇上に立ち、集まった貴族や商人たちに向けて演説を始めた。「本日、皆様のご協力のもと、この結婚式を成功させることができました。この結婚は、私個人の幸せのためだけではありません。これからの新しい時代を切り開くための誓いでもあります」
その言葉に多くの人が耳を傾けた。彼女の落ち着いた声には力強さがあり、次の時代への期待を抱かせるものがあった。演説が終わると、会場には再び拍手が鳴り響いた。
夜も更け、最後の来賓が席を立つ頃、アレクサンドルは一通の密書を受け取った。その内容を目にした彼の表情が一瞬だけ曇る。「対立勢力が動き始めているようだ」彼はセリーヌに報告した。「今日の式が彼らにとって脅威となることは予想していたが、思ったより早い」
セリーヌはその報告を受けても動じることなく、静かに目を閉じた。「彼らが動くならば、私たちもそれに備えましょう。この結婚は私たちの未来を守る第一歩。ここで立ち止まるわけにはいかない」
レオニードもその場に加わり、二人の言葉に力強く頷いた。「この国の未来を守るために、共に戦おう」
その夜、月明かりが庭園を照らす中、セリーヌとレオニードは静かに誓いを新たにした。式の成功がもたらした希望と、それに対する脅威の予感。二人はその全てを抱えながら、これからの道を進む覚悟を固めていた。