最後の一手: 合意への道筋

戦いの翌朝、焼け落ちることなく守られた拠点には、静寂が戻っていた。地平線に朝日が差し込む中、アレクサンドルは整然と行動する部下たちを見渡しながら、夜の激戦を振り返っていた。犠牲を最小限に抑えたものの、緊張感はまだ完全には解けていなかった。

「捕虜を連れてきました」兵士が深い礼とともに報告すると、アレクサンドルの目が冷たく光った。拘束されていたのは、月の信者過激派の指導者の一人である中年の男だった。彼の目は依然として敵意に満ちていたが、その顔には敗北の影も濃く落ちていた。

「君たちの戦いはここで終わりだ」アレクサンドルの言葉は静かだったが、その一言には圧倒的な威厳があった。彼は捕虜の目をしっかりと見据えたまま続けた。「だが、これ以上無益な争いを続けたくない。君たちの要求を冷静に聞く用意はある」


その数時間後、会議室にはアレクサンドル、セリーヌリュドミラ、そして捕虜である対立勢力の代表が集まっていた。窓から差し込む光が、緊張に包まれた空気を一層際立たせていた。

「セリーヌ・アルクナス、あなたはこの国を新たな帝国に導くと宣言している」捕虜の声は低く、しかし挑発的だった。「だが、それが我々の利益にどう貢献するというのか?」

セリーヌはその言葉に微笑みを浮かべたが、その笑顔には鋭さがあった。「我々の目標は、ただの権力闘争ではありません。エリディアム帝国を再建し、公平な商業環境と安定した政治体制を築くことです。それは君たちにも利益をもたらすはずです」

捕虜は眉をひそめながらも、言葉を飲み込むように黙り込んだ。その様子を見たアレクサンドルが言葉を引き継いだ。「この戦いで証明されたことは、無駄な争いはどちらにも損害を与えるだけだということだ。私たちは、この国の未来のために協力する道を探っている」


交渉は緊張感を伴いながらも着実に進んだ。セリーヌは冷静な口調で、彼らが協力することで得られる具体的な利益を示し、過激派の中の一部が動揺を見せ始めた。一方で、アレクサンドルは戦略家としての鋭さを発揮し、条件の裏に隠された彼らの本音を見抜いていた。

「我々が協力を約束するなら、現体制の一部は残すべきだ」捕虜の代表が切り出した。

「必要ならば、君たちの安全を保証し、現体制との接続を模索する準備もある」アレクサンドルは毅然と応じた。「だが、それはあくまで互いの協力が成り立つ場合のみだ」


最終的に、捕虜の代表は深いため息をつきながら、静かに頷いた。「……君たちの言葉を信じるしかなさそうだ」

その言葉を聞いたセリーヌは立ち上がり、彼に歩み寄った。「君たちの信頼を得るため、私は全力を尽くす。だが、ここで示された合意は、この国の新たな基盤となるものだと信じている」

その瞬間、会議室には一種の安堵が広がった。過激派の指導者たちの多くが合意に署名し、セリーヌ擁立計画は新たな段階へと進んだ。


部屋を出たアレクサンドルは、廊下でセリーヌと並び立ちながら呟いた。「まだ道のりは長いが、今日は一つの山を越えた」

セリーヌは小さく微笑み、「その山が次の戦いを強くする」と答えた。彼女の目には、新たな帝国への強い決意が映し出されていた。