カストゥムのクレマン商会本部に再び招かれたアレクサンドルは、荘厳な応接室に足を踏み入れた。前回の交渉から数日が経過し、準備してきた具体案を提示するための重要な会合が始まろうとしていた。
ロベール・クレマンは、いつものように端然と座り、隣にはセバスティアン、そして商会幹部たちが並んでいた。その眼差しには慎重さが残りつつも、前回よりもわずかな期待の色が見える。
アレクサンドルは、持参した資料を机の上に広げながら話し始めた。「ロベール殿、セバスティアン殿、皆様。前回の会合でご指摘いただいた点を踏まえ、具体的な案をまとめて参りました」
彼は指で地図をなぞり、カストゥムとエリディアムを結ぶ交易ルートを示した。「まず、税制改革により関税を統一することで、カストゥムを軸に効率的な交易網を構築します。これにより、クレマン商会が負担するコストは大幅に削減され、利益率が向上します」
フィリップが慎重な表情で尋ねた。「だが、税制改革が進むまでの間、商会が損害を受ける可能性はどうなる?」
アレクサンドルは深く頷きながら答えた。「その点については、エルドリッチ商会として保証する準備があります。改革期間中の損失が出た場合、補填を行うための基金を設立する予定です。また、セリーヌ陛下即位後には、クレマン商会が優先的に帝国内での交易権を確保できるよう手配します」
ジュリアンが興味深そうに身を乗り出した。「それが実現すれば、商会の利益は確保されるどころか、拡大する可能性があるな」
セバスティアンも笑みを浮かべて頷いた。「父上、アレックの提案はリスクがあるにせよ、それを補うだけの価値があると私は思います」
ロベールは手元の書類をじっと見つめた後、静かに口を開いた。「アレクサンドル、君の提案は理想を掲げつつも現実に即している。だが、商会全体としての判断には、具体的な保証が鍵となる」
アレクサンドルは一歩前に進み、真剣な目でロベールを見つめた。「その保証を提供するのが、私たちの計画の核心です。クレマン商会がこの新時代の中心に立つことで、カストゥムだけでなくエリディアム全体に繁栄をもたらすことができます」
長い沈黙の後、ロベールは深く息をつき、立ち上がった。「商会として、この計画への協力を正式に表明する。ただし、条件は商会の利益が確保されること、そして約束された改革が速やかに進められることだ」
アレクサンドルは安堵の笑みを浮かべ、深く頭を下げた。「ありがとうございます。貴商会の協力は、計画成功の鍵となります」
幹部たちが賛同の声を上げ、部屋の雰囲気が柔らかくなった。セバスティアンが近づき、アレクサンドルの肩を軽く叩いた。「やったな、アレック。この計画には君の信念が込められている。それが父に響いたんだ」
「君の支えがあったからだ、セバスティアン」アレクサンドルは感謝の気持ちを込めて応えた。「共にこの未来を築こう」
この合意は、セリーヌ擁立計画が現実に向けて進む重要な一歩となった。クレマン商会がその中心に立つことで、カストゥムを軸にした新時代の展望がいよいよ形を見せ始めた。