イザベラ・ヴァン・エルドリッチとセバスティアン・クレマンの婚礼が終わり、夜の静寂が城の庭に広がっていた。宴の余韻を残しながら、セシル・マーベリックとエミリア・フォルティスは、庭のベンチに並んで座っていた。彼らにとって久しぶりの静かな時間であったが、その空気には微かな緊張感が漂っていた。
「素敵な式だったわね」エミリアが優しく微笑むと、セシルは頷いた。
「そうだな、イザベラとセバスティアンは本当に幸せそうだった」セシルは少し考え込みながら言葉を選んだ。
二人の間にしばし沈黙が流れた。エミリアはセシルの様子を伺いながら、自分の胸の中で抱えていた問いを切り出す時が来たことを感じた。
「セシル、私たちの結婚のことなんだけど……いつになるのか、ちゃんと決めた方がいいんじゃないかしら?」エミリアの声は優しいが、その中には確固たる意志が感じられた。
セシルは一瞬目を伏せ、苦笑いを浮かべた。「その話か……わかっているよ、エミリア。だけど、今はまだ仕事が落ち着かない。各地を回る予定もあるし、結婚の準備を始めるとなると、仕事がどれくらい止まるかわからないんだ。だから、そのうちに……」
「『そのうち』ね。でも、それがいつになるのか、私たちには分からないわ。待ち続けることもできるけど、私はもう決断したいの」エミリアは彼をしっかり見つめた。「あなたも同じ気持ちじゃない?」
セシルはその言葉に少し驚いたが、エミリアの真剣な瞳を見つめ返し、息を吐いた。「俺も、もちろん結婚のことは真剣に考えている。だけど、今すぐというのは……正直、急いで決めるのが怖いんだ」
エミリアは優しく微笑んだ。「それなら、思い切って時期を決めてみない?3ヶ月後っていうのはどうかしら。その間、仕事を少し控えて、二人で結婚の準備に集中できる時間を作るの」
セシルは眉をひそめて考えた。「3ヶ月……だが、その間に旅をやめるということは、今進めている仕事を止めることになる。それは……」
「セシル、私たちの未来を築くために、今の仕事を一度止めることはできないの?」エミリアの言葉は穏やかだが、その一言一言に説得力があった。
セシルはしばらく考えた後、ため息をついてエミリアを見つめた。「お前がそう言うなら……3ヶ月後に結婚するという方向で進めるか。仕事の方は、少しの間、休むことにしよう」
エミリアの顔には、安堵の表情が浮かんだ。「ありがとう、セシル。それなら、これからのことをしっかり準備していけるわね」
セシルは頷きつつ、もう一つの話題に目を向けた。「ところで、ルーン・オーブのことだけど、気になってるよな?」
エミリアは頷いた。「そうね。リディアの救出で知ったあのオーブの存在、私たちの仕事とは少し離れているけど、気にかかるわ」
「俺もそう思う。あれがただの遺物ではないのは明らかだし、これからも何らかの影響があるだろう。俺の友人、レティシア・ノルヴィスなら、古代文明の魔道技術や遺物に関してかなりの知識を持っている。彼女の助けを借りれば、何か新しい情報が得られるはずだ」セシルはレティシアの名前を口にしながら、自分の考えが整理されていくのを感じた。
「レティシアなら確かに力になってくれるわね。彼女に会いに行くのがいいと思うわ」エミリアはすぐに同意した。
「そうだな。結婚の準備が整うまでの間に、彼女と会って話を聞いておこう。それに、ルーン・オーブについて知っておくことは、今後の俺たちにも大切だろう」
話し合いが終わると、セシルとエミリアは再び夜空を見上げた。二人の将来を見据えた決断を下し、新しい冒険へと向かう準備も始めた。セシルの胸の内には、エミリアとの未来がはっきりと描かれ、彼の目は以前にも増して輝いていた。