沈黙の訪問

エリディアムの片隅に佇むクレスウェル家。かつての繁栄の面影を失い、静まり返った家に重い空気が漂っていた。アレクサンドル・ヴァン・エルドリッチは庭の門の前でしばし立ち止まり、深い息をついてから門を押し開け、足を踏み入れる。

リディアが消息を絶って数ヶ月が経つ。彼女の不在は「黎明の翼」だけでなく、彼自身にも深い喪失感をもたらしていたが、クレスウェル家の家族が背負う苦しみは想像を超えていると理解していた。静かな庭を歩き、扉を軽くノックする。しばらくして開かれたドアの向こうに、エリーナが姿を現した。

「アレック……来てくれたのね」エリーナは微かに微笑みを浮かべたが、その声はかすかに震えていた。

「エリーナ、久しぶりだね」アレクサンドルは優しく肩に手を置き、彼女の成長と心に宿る深い憂いを感じ取った。以前の幼さが消え、リディアの不在が彼女に与えた影響が、表情に表れていた。

その背後から、低い声が響く。「よく来てくれたな、アレック」兄のレオンが姿を見せ、アレクサンドルに静かにうなずき、無言で家の中へと招き入れた。

居間でアレクサンドルが椅子に腰掛けると、エリーナとレオンが向かいに座った。アレクサンドルは、リディアのことだけではなく、彼女が活動していた「黎明の翼」のことも話すべきだと感じた。

「実は、リディアと私は『黎明の翼』という団体に属しているんだ。私たちはアウレリア全土に潜む古代の謎や秘宝を解明するために活動している。その活動の中で、リディアも私もさまざまな危険に挑んできたんだ」

エリーナは驚いた表情を見せた。「お姉様が……そんなことを……?」

「ええ、リディアはその活動に深い使命感を抱いていた。『黎明の翼』に参加して以来、彼女はたくさんの試練を乗り越えた。そしてその強さは、きっと彼女自身をも支えているんだ」

レオンは静かにうなずきながらも、心配そうに視線を下げた。「妹がそんな重荷を背負っていたとはな……。でも、それを選んだのも彼女自身の意志だったんだな」

アレクサンドルは二人に穏やかな表情を向け、「リディアは仲間を大事にしていたし、みんなのために立ち上がる勇気を持っていた。君たち家族のことも、いつも心に抱いていたよ」と伝えた。

エリーナは、アレクサンドルの言葉に触発され、少しだけ顔を上げて問いかけた。「お姉様は……必ず戻ってきてくれますよね?」

アレクサンドルは静かに彼女の手を取り、優しく力強い声で答えた。「ああ、リディアは誰よりも強い。必ず戻ってくる。それまで、君たちもこの家を守り続けてほしい」

エリーナはその言葉に少しだけ安心した表情を見せ、レオンもまた深い思慮に満ちた眼差しで彼の言葉を受け止めていた。

その夜、アレクサンドルはクレスウェル家を後にし、星空を見上げた。リディアの不在が彼の胸に残す傷は深かったが、彼女の家族に希望を与えることが、彼自身の支えにもなっていた。

「リディア、必ず君を見つけ出す……」と、心に誓いながら静かに夜の街を後にした。