灰燼の連盟の本拠地は普段の静謐な空気とは異なり、結婚式の準備に向けた忙しさに包まれていた。セリーヌ・アルクナスとレオニード・バルカンの結婚は、単なる個人的な出来事ではない。この国の未来を占う重要な儀式であり、関係者たちには自然と緊張が走っていた。
セリーヌは集まった仲間たちを前に立ち、まっすぐな眼差しで語りかけた。「この結婚は、私たちが目指す新しい秩序への礎です。皆さんの協力があってこそ、この計画を成功に導けます」
その声は広間の隅々にまで響き渡り、同席していた灰燼の連盟のメンバーや招かれた貴族たちに静かな感動を与えた。レオニードはそんなセリーヌの横顔を見つめながら、改めて彼女の覚悟とリーダーとしての器を感じていた。
広間を離れると、セリーヌは書斎に戻り、机に広げた文書の山に目を落とした。国全体に送られる招待状や、式の安全を確保するための計画書が所狭しと並んでいる。その中で一通の手紙を手に取り、深い息をついた。
「これほどまでに多くの期待を背負うことになるとは……」セリーヌは思わず独り言を漏らした。
その瞬間、アレクサンドルがノックもせずに入ってきた。「セリーヌ、少し休んだらどうだ?」彼は軽く笑みを浮かべながらも、セリーヌの疲労を察しているようだった。
「休む時間なんてないわ」セリーヌは微かに笑いながらも首を横に振った。「この結婚式は、計画を進めるための試金石になる。何も疎かにはできないの」
アレクサンドルは机の端に腰を下ろし、軽く肩をすくめた。「君の責任感は皆が認めている。でも、リーダーが倒れたら意味がない。式まで時間はまだある。少し肩の力を抜け」
セリーヌはその言葉に一瞬目を閉じ、深く息をついた。「わかったわ。少しだけね」
一方で、レオニードは結婚式の警備体制について話し合うため、自らが指揮する部隊と訓練を行っていた。彼の目は厳しく、それでいて落ち着いている。
「式が持つ意味は重い。だからこそ、どんな脅威にも備えなければならない」彼は部下たちにそう語りかけた。「我々の役目は、セリーヌ様が計画を完成させるその日まで支え続けることだ」
訓練を終えた後、レオニードはセリーヌのもとを訪れた。彼女はまた書類に目を通している最中だったが、彼の足音に気づいて顔を上げた。
「忙しいのにわざわざ来てくれるなんて、感謝するわ」セリーヌは微笑んだ。
「式を成功させるのは、俺たちの務めだ」レオニードは言葉を選ぶようにして続けた。「君が導こうとしている国の未来、それを信じている。だから、安心して進んでくれ」
セリーヌはその言葉に一瞬驚き、やがて柔らかな笑みを浮かべた。「ありがとう、レオニード。あなたがいることで、私も自信が持てる」
結婚式の準備は順調に進んでいるように見えたが、その裏では緊張感も高まっていた。灰燼の連盟の情報網を通じて、結婚式を妨害しようとする対立勢力の動きが察知されていた。
アレクサンドルはその報告を受け、セリーヌに告げた。「妨害を恐れて式を中止するわけにはいかない。それでも、彼らの動きを軽視することもできない」
「式を守るために、すべての準備を整えましょう」セリーヌは毅然とした態度で答えた。
式の準備に忙しく立ち回る仲間たちの姿は、希望と不安が入り混じる状況を映し出していた。しかし、彼らが一つにまとまることで、セリーヌとレオニードの結婚式は、計画における重要な転機となるはずだった。