エミリア・フォルティスは、古代の魔法の残り香が漂うエリディアムの遺跡に足を踏み入れ、深い静寂の中に立ち尽くしていた。闇に包まれた空間からは、遥か昔の魔力が微かに漂い、冷やりとした空気が肌にまとわりつく。
「この場所……何かが眠っている」
彼女の足音が石床に響き、その一つ一つが遺跡の奥へと導いているように感じた。エミリアは壁に触れ、手のひらで古代の刻印をなぞりながら少しずつ進んでいく。遺跡に刻まれた模様や古代文字が意味を成すように見えてきた。
「セシル、この先に何かがあるわ。微かな魔力の残留が感じられる」とエミリアは振り返り、セシルに静かに告げた。
エミリアの声に、セシルは注意深く頷き、彼女の後を慎重に進んでいった。彼はエミリアの繊細な感覚と知識を信頼していたが、遺跡の奥へと進むにつれて、周囲の空気が次第に張り詰めていくのを感じ、少しずつ緊張を強めていった。
エミリアが石台のある部屋の前で立ち止まった。石台の表面はくすんだ光を放っており、まるで長い眠りの中で封印された力が、かすかに息をしているかのようだった。
エミリアはゆっくりと石台に近づき、慎重に手をかざした。魔力の残留がそこにあるのは確かだが、彼女の手が近づくにつれて、遺跡全体が静かに脈打つように反応しているのを感じた。
「リディア……あなたがここにいるの?」エミリアは小声でつぶやいた。その言葉は彼女の心から湧き出るものであり、思わず口にしてしまった。
彼女が意識を集中すると、台座から微かに感じ取れる魔力の波動が、自身の魔力と共鳴し始めた。その共鳴は、まるで長い時を経て再びリディアが応えてくれているように感じられた。
エミリアの集中した姿を見つめていたセシルも、胸の奥がざわつくのを感じた。リディアがこの場所で封印されているのかもしれないという事実に、彼の冒険者としての血が騒ぎ出したが、それ以上に、この発見が仲間にとってどれほど大きな意味を持つかを感じていた。
「エミリア、確かに何かの痕跡があるんだね?」セシルは静かに尋ねた。
エミリアは彼に視線を向け、深く頷いた。「ここには強い魔力が残っているわ。リディアがここに封印されているのか、あるいは何らかの形でこの場に関係している可能性が高いわ」
エミリアは、この場に残る魔力を確かめ、さらに意識を集中させた。リディアの存在を確かめるかのように、自分の魔力を周囲に放ち、封印の仕組みを探っていった。彼女の心の中では、封印されたリディアを救い出したいという強い願いが渦巻いていた。
その願いに呼応するかのように、台座は小さく脈打ち、彼女の魔力を受け入れるように共鳴し始めた。
この現象を目の当たりにしたセシルは、リディアがこの場所に封じられている可能性がますます高まっていることを実感した。「アレックに知らせなければ……」と彼は即座に考え、リディアの仲間である彼らがここに駆けつけるべきだと感じた。
セシルは、近くの村でアレクサンドルたちが滞在しているという情報を思い出し、エミリアに「しばらくこの場を見守っていてくれ」と伝え、急いで村へ向かった。
こうして、エミリアはリディアの封印の痕跡にたどり着き、セシルはアレクサンドルたちにこの発見を知らせるために動き出した。