セリーヌ・アルクナスがまだ若く、冒険者としての道を模索していたころ、彼女はある小さな村にたどり着いた。村は山間にあり、雨が降り続いていたため、道は泥濘んでいて、ほとんどの村人は家に閉じこもっていた。
セリーヌは村に避難しようとしたが、ふと立ち寄った村の広場で、一人の男が荷車を泥から引き出そうとしているのを目にした。男の顔は汗で濡れ、必死に動こうとするが、どうにもならないようだった。セリーヌはしばらくそれを見つめた後、重い足取りで男のもとへと歩み寄った。
「手を貸しましょうか?」
彼女の言葉に男は驚いたが、セリーヌの力強い目を見て黙ってうなずいた。彼女は自分の背に背負っていた大きな荷物を置き、男と共に荷車を引き上げようとした。力を合わせて数回試みた後、ようやく車輪が泥から抜け出し、荷車は安定を取り戻した。
「助かったよ。ありがとう。君はこの辺りの人じゃないね?」
セリーヌは汗をぬぐいながら、静かにうなずいた。「私は通りすがりの冒険者です。この村で少しの間、雨宿りをしようと思って立ち寄りました」
男は安堵の表情を浮かべたが、続けてこう言った。「実は、この荷車には病気で倒れた村の老人たちのための薬草が積まれているんだ。この雨で道がぬかるんでしまって、もう少しで諦めるところだった。君が来てくれて本当に助かった」
セリーヌはその言葉を聞いて一瞬考え込んだ。彼女はいつも、ただ強くなりたいという思いで行動してきた。自分の剣術や戦闘力を高めるために、時に他人を顧みずに進んでいた。しかし、この村で、誰かを助けるという新しい感覚が彼女の心に浮かび始めた。
「もしよければ、私が村まで荷車を運びましょう」
男は驚き、しかしすぐに感謝の表情を見せた。「君は天使かい?本当に助かるよ」
セリーヌは笑みを浮かべ、男と共に村の医師の家まで荷車を運んだ。途中、泥に足を取られそうになりながらも、彼女は決して諦めず、何度も男を励ました。そして、村の老人たちに薬草を届けると、彼らの感謝の言葉がセリーヌの耳に響いた。
その夜、雨がやみ、村は静けさに包まれた。セリーヌは村の外れにある小さな宿屋で床に着きながら、自分の行動を振り返った。「力だけが全てじゃない。他者を助けること、それが本当の強さかもしれない」彼女の心に、これまでとは異なる目標が芽生え始めた。