カストゥムの自宅の庭。夕方の柔らかな光が草木に反射し、庭全体が黄金色に包まれている。アイリーン・マルヴェールは、母エミリアと一緒に、何気ない日常の一幕を過ごしていた。アイリーンは家族との時間を大切にしており、このひとときもまた心の安らぎを与えていた。
「この薬草は、傷の治りを助けるの」エミリアはアイリーンに小さな花を手渡しながら話した。
「本当に母さんはなんでも知ってるんだね」アイリーンは微笑んだ。幼少期から、母の知識に触れるたびに、彼女が医師としてどれほど多くの人を救ってきたかを思い出す。
エミリアは微笑みながら、じっとアイリーンを見つめた。「アイリーン、あなたはいつも強いわね。でも、時には立ち止まって考えることも大切よ。強さだけが全てじゃないの」
アイリーンは少し驚いた表情を浮かべた。確かに、彼女は戦士としての道を歩みながら、強くあることが使命だと感じていた。だが、母の言葉には深い意味が込められているようだった。
「私は、いつも誰かを守りたいと思ってる。でも、それが本当に私の望むことなのか、時々わからなくなるんだ」アイリーンはそっとつぶやくように言った。「父や母が築いてきたこの家族のように、私も何かを守りたい。でも、戦いが全てじゃないってことも、分かってるんだ」
エミリアは静かに頷いた。「戦いが強さを証明するのではなく、思いやりや知恵もまた、強さの一つよ。私も、治療で人を助けるけど、それは剣を振るうのとは違う形の強さね」
「そうだね…」アイリーンは深く考え込むように、目の前の花々を見つめた。彼女は強くなりたいという気持ちがありながらも、戦士としての道にだけ自分を縛ることが正しいのか、迷っていた。
「自分が本当に何を大切にしたいかを知ることが、一番大切な強さよ。」エミリアはそう言って、優しくアイリーンの肩に手を置いた。
その晩、アイリーンは自分の部屋でゆっくりと考えた。戦士としての道は確かに彼女にとって重要だが、母が示してくれた思いやりや知恵の力もまた、彼女が持つべき強さであることに気づき始めていた。