リディア・クレスウェルが無事に救出された後、エリディアムの静かな町で療養することになった。彼女は体力を回復させるため、しばらくの間、冒険から距離を置かねばならなかった。一方、エリーナ・クレスウェルは、ずっと追い続けていた姉をついに救出したことで、心にぽっかりと空いた感情の空白に戸惑っていた。これまでの人生は、姉の影を追いかけ続けることだった。それがついに叶い、次に進むべき道が不明瞭になっていた。
ある日、エリーナはエリディアムの美しい森の中で静かに歩きながら、これまでの出来事を思い返していた。リディアを救出するために彼女が費やした時間と努力、そしてその過程で成長してきた自分。だが、姉を助け出した今、自分の目標は何なのか。リディアが元気を取り戻して再び剣を取るとき、自分は一緒に戦い続けるのか、それとも別の道を選ぶのか。エリーナはまだその答えを見つけられずにいた。
「エリーナ……」
優しい声が背後から聞こえた。振り返ると、そこにはエミリア・フォルティスが立っていた。彼女はリディアの回復を見守りながらも、エリーナの様子に気をかけていた。エミリアは、アレクサンドルや黎明の翼の仲間たちとも親しいが、特にエリーナに対しては姉妹のような親しみを感じていた。
「考え事してたの?」エミリアは微笑みながらエリーナのそばに歩み寄った。
エリーナは少し笑って頷いた。「そう。今までずっと、姉を助けることが私の全てだった。でも、今は……どうすればいいのかわからない。これから何を目指して生きていけばいいのか……」
エミリアは静かに耳を傾け、エリーナの肩に優しく手を置いた。「それは自然なことよ。今まで目標がはっきりしていたからこそ、達成した後の空虚さが大きく感じられるのよ」
エリーナは深く息をつき、心の中に抱えていた迷いを吐き出した。「私はずっとリディアみたいになりたかった。彼女が私の目標だった。でも、今は彼女が戻ってきた……そして、私は彼女の代わりにはなれないことに気づいた」
エミリアはその言葉に頷きながら、少し考え込むように視線を落とした。「あなたはリディアの代わりになる必要はないわ。エリーナ、あなた自身の道を見つけることが大切なのよ。これまでのあなたの努力はすごかった。だけど、これからはあなた自身がどんな生き方をしたいのかを見つける時かもしれないわ」
エリーナはその言葉に励まされ、静かに目を閉じて考えた。エミリアの言う通りだった。これまで彼女は、リディアのために戦い、リディアのために生きてきた。しかし、これからは自分自身の人生を考えなければならない。
「……私はどうしたいんだろう?」エリーナは自分自身に問いかけた。
エミリアは微笑みながら、「ゆっくりでいいのよ。急がなくても、必ず自分の答えが見つかるわ。姉妹の絆は変わらないし、リディアもあなたが自分の人生を大切にすることを願っているはず」
エリーナはその言葉を聞いて、少しだけ心が軽くなった。まだ迷いはあるが、これからの自分の道を考えるための一歩を踏み出す勇気が湧いてきた。
「ありがとう、エミリア。少し、心が晴れた気がするわ。これから何をするにしても、自分の気持ちに正直でいたい」
「そうよ、エリーナ。それが一番大切なこと。あなたは強いから、きっと自分の道を見つけられる」
その日、エリーナは姉との関係に対して新たな視点を持ち、自分自身の未来を見据えるための決意を固めた。エミリアの助けを借りて、彼女はこれからどのように自分の人生を進めていくか、じっくりと考えることができるようになった。