クレスウェル家の両親との再会
イザベラとセバスティアンの婚礼から数日が過ぎ、一行はガルファリスに乗りながらエリディアムへ向かっていた。クレスウェル家の館に戻ることが決まり、リディア、レオン、エリーナ、そしてアレクサンドルの4人は、かつての栄光を失った家族の故郷へ向けて険しい道を進んでいた。
リディアはガルファリスの手綱を握りしめ、前方に目を向けたまま、内心では両親との再会に複雑な思いを抱えていた。何年も会っていない「お父様」「お母様」に、極秘任務のことをどう伝えるべきか、そしてクレスウェル家が関わる陰謀の真相についても確信が持てないままだった。
レオンは、妹のリディアとエリーナを静かに見守りながら、長い沈黙を保っていた。エリーナもまた、無邪気さを抑えきれずに「お父様」「お母様」に会える喜びを隠せない様子だったが、彼女の瞳には不安が見え隠れしていた。クレスウェル家の没落後、家族の運命がどのように変わっていくのかを考えると、その胸は重くなるばかりだった。
その中でアレクサンドルは、彼らを一歩引いた位置から見守っていたが、その存在感は決して軽いものではなかった。彼はリディアの頼もしい仲間であり、黎明の翼のリーダーとして、彼女の苦悩を理解していた。ガルファリスの背に乗りながら、彼はこの旅が単なる家族再会では終わらないことを直感していた。何かが、彼らの前に立ちはだかるに違いない。
「リディア、君の判断は正しい。今は家族に真実を伝える時だ。しかし、僕たちは君をサポートするためにここにいる。どんな状況でも、共に乗り越えよう」アレクサンドルはリディアに対して落ち着いた声で言い、その言葉は彼女に安心感を与えた。
リディアは小さく頷きながらも、ガルファリスの歩みを止めることなく前進を続けた。心の中で、この再会が家族の絆を深めると同時に、真実に向き合うための重要な一歩となることを理解していた。
やがて、彼らはエリディアムの山中にあるクレスウェル家の館にたどり着いた。館はかつての栄光を失い、古びた姿を見せていたが、広がる庭や周囲の自然はまだその美しさを保っていた。
「ここが……クレスウェル家だな」アレクサンドルが静かに呟いた。彼の鋭い視線が館を見渡し、何か異変を感じ取っているようだった。
リディアは馬を降り、深呼吸をしてから館を見上げた。「戻ってきたわね……」彼女は小さくつぶやき、ガルファリスの手綱を解きながら、兄妹たちとともに歩き出した。
レオンはリディアの隣に立ち、深く息を吸い込んだ。「長い間、家を離れていたが、今こそ真実を知る時だ」
エリーナは幼少期の思い出を胸に抱きながら、興奮を抑えきれず、真っ先に館の扉へと駆け寄った。そして、その扉が開かれると、両親の姿が現れた。
クレスウェル家の母、アンナが最初に声を発した。「エリーナ……、リディア……! レオン……!」彼女の目には涙が浮かび、3人の子どもたちを強く抱きしめた。久しぶりの再会に、母の胸には様々な思いが駆け巡っていた。
アンナは家族を館の中へと招き入れ、暖かい部屋へと案内した。そこで待っていたのは父、ガイウスだった。ガイウスの目は歳月の流れを物語っていたが、再会の喜びに満ちていた。
「よく帰ってきたな……我が子たちよ」ガイウスは力強く言い、彼の声には久しぶりに子どもたちを迎える父の誇りが込められていた。
暖炉の前で、家族は久しぶりに集まり、クレスウェル家の失われた日々について語り合った。だが、その場には静かな緊張感が漂っていた。リディアは、この再会が単なる懐古ではなく、真実に向き合う場であることを理解していた。
夕食が終わり、静まり返った館の中で、リディアは再び口を開いた。「お父様、お母様……私たちがここに来たのは、ただの再会のためではないのです」
アンナとガイウスはリディアの言葉に真剣な表情を見せた。リディアは、セラフィナ・カレヴァの命を受けていた極秘任務や、クレスウェル家の没落に関連する陰謀の存在について語り始めた。
「『古代神』や、それを信奉する有力者たちが、私たち貴族や聖職者に影響を及ぼしているのではないかと……」リディアの声には緊張がこもっていた。
アレクサンドルが静かに一歩前に出て、リディアの話を補完するように語り出した。「私たちは、この陰謀がクレスウェル家に影響を与えた可能性を探りたい。だからこそ、ご両親が知っていることを教えてほしいのです」
アンナとガイウスは沈黙を破り、彼らが知りうる情報を語り始めた。これまで隠されてきた真実が、ゆっくりと明らかにされる中、彼らは再び結束し、次なる行動を決意したのだった。