フィオルダス家との連携と縁組みの提案
アンナ・クレスウェルは、フィオルダス家との縁組みの話を進めるための手紙を再び手にしていた。数年前から水面下で動いていた計画が、少しずつ形になろうとしている。彼女は慎重に機会をうかがい、マルコム・フィオルダスとリディアが自然に顔を合わせる場を用意してきた。そして、これまでに築いてきた関係が、信頼に基づいたものであることを確かめる段階に入ったのだ。
ある日、アンナはリディアを連れて、フィオルダス家が主催する社交の場に赴くことにした。これは正式な場ではなく、フィオルダス家の関係者や友好家族が集まる小さな集まりだった。リディアにはただの社交の一環としか伝えていない。彼女が意識することなく、自然体でマルコムと接することができれば、アンナの計画は一歩前進するはずだ。
当日、リディアは気負わず、普段通りの装いでアンナとともにフィオルダス家の屋敷へと向かった。マルコムは迎えの場でリディアに笑みを向け、「お久しぶりです、リディア殿。ずいぶんと強くなられたと噂を耳にしています」と声をかけた。彼の言葉に、リディアは笑顔で返し、「マルコム殿もお元気そうで何よりです」と応じる。彼女の態度は自然で、何も知らない彼女の姿にアンナはほっと胸を撫で下ろした。
その日の集まりで、リディアとマルコムは少しずつ会話を交わした。フィオルダス家の情勢やエリディアムの今後について語り合う中で、二人の間には共通の話題が増えていく。リディアが剣士としての経験を語ると、マルコムは「戦いの道を選ばれたのですね。その意志と勇気は、さすがクレスウェル家の一員だ」と賞賛した。
アンナは離れた場所から二人の様子を見守っていた。計画通り、リディアとマルコムは親しく、しかし自然な形で交流を深めている。彼女は、二人がこのまま信頼関係を築き、いずれ縁組みが成立することを願っていた。
夜が更け、集まりが終わる頃、アンナはマルコムと目が合った。彼は軽くうなずき、再び集まる機会を提案してきた。アンナはその提案に感謝し、リディアには気づかれないように控えめに応じた。この計画はすぐに結実するものではないが、慎重に、少しずつ歩みを進めることで、クレスウェル家の未来への一歩を確実にすることができると確信していた。
帰り道、リディアは「今日の集まり、楽しかったわ」と微笑んだ。その笑顔にアンナは穏やかな気持ちになりつつも、心の奥ではまだ張り詰めた緊張を感じていた。家族の未来のため、彼女はこの慎重な道を進む決意を再び固めたのだった。