フォルティス平原から都市へ
フォルティス平原の澄んだ空気の中、アレクサンドル・ヴァン・エルドリッチは、アルヴォラの村を見渡していた。広大な草原の向こうに連なる山々、そのふもとでひっそりと佇む村の景色は、彼の心に深く根付いた故郷そのものだった。しかし、その故郷を遠く離れる決意が、彼の胸に強く宿っていた。
アレクサンドルが都会へ出ることを心に決めたのは、村の運命を案じたからだった。年々、村を支えていた農業は衰え、外部との商取引も少なくなっていた。近隣の都市で得られる情報や、アレクサンドルの伯父から聞く貴族や商人たちの世界に触れるたびに、彼はアルヴォラが外の世界とどうにか繋がる道を模索しなければ、この村の未来は閉ざされてしまうだろうと危機感を抱くようになっていた。
ある日の夕方、彼は村外れの小道でセドリック・ヴォルストと語らっていた。薄暗い空の下、セドリックの鋭い眼差しがアレクサンドルを見つめ、彼の抱える葛藤を察していた。
「アレクサンドル、お前の目はいつもこの村だけでは満たされない何かを追っているようだ」セドリックが静かに語りかけた。
アレクサンドルは少し驚いたが、すぐに微笑を浮かべ、言葉を返した。「僕はただ……この村が未来を失わないようにしたいだけなんです。都市の賑わいや知識が、どれほどこの場所を支える力になるのか、考えずにはいられません」
セドリックは頷き、草原の向こうに広がる夜空を見上げた。「都会へ行けば、目にするものや耳にすることすべてが、新しい道となるだろう。その中で己を見失わぬ限り、お前は何かを掴むはずだ」
その言葉は、アレクサンドルにとって背中を押されるような思いだった。彼は都会への不安とともに、未知の可能性に対する期待に胸を高鳴らせた。「分かりました、セドリック。僕はこの村を離れ、もっと広い世界で知識と経験を積みます。そして必ず、何らかの形でこの村を救う力を持って戻ってきます」
セドリックはアレクサンドルの決意に微笑を返し、背中を軽く叩いた。「さあ、迷わず行け。お前が村に再び足を踏み入れるその時、きっとここは変わっているだろう」
その夜、家族との最後の食事の場で、アレクサンドルは都会へ旅立つ決意を告げた。両親は驚きつつも、その眼差しには息子の成長と独立を喜ぶ気持ちが込められていた。アレクサンドルの父ヴィクターが彼の手を強く握り、「お前が行くべき道なら、何も恐れずに進みなさい」と声を震わせながら励ました。
翌朝、アレクサンドルは荷物を背負い、家族と村人たちに見送られながら村を後にした。振り返ると、故郷の景色が陽光に包まれ、その温もりを最後に心に刻みつけた。