リディアとの手紙の記憶
エリーナ・クレスウェルは静かな夜、ひとりクレスウェル家の薄暗い書斎にいた。小さな机の上には、丁寧にしまわれた姉リディアからの手紙が何通か積み重なっている。手紙はリディアがカストゥムに旅立った直後から送られてきたもので、その一つ一つがエリーナの大切な宝物だった。
ランプの暖かい光の中でエリーナは、そっと一枚の手紙を手に取り、丁寧に封を切り開いた。リディアの力強い筆跡が、紙の上で堂々と踊るように並んでいる。「エリーナ、元気でいる?」そんな言葉が真っ先に目に入り、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
「お姉様……」声にならない声で、エリーナは手紙を抱きしめた。その頃から心の奥にある不安を和らげるため、何度も読み返した手紙だったが、今はかえってその文字が、リディアの不在を際立たせるかのように感じられた。
リディアは遠い地で新たな力を身に着け、クレスウェル家を守る覚悟で訓練に励んでいる。その誇らしい姿が目に浮かび、エリーナは「自分も姉のように強くなりたい」と幾度も思い描いたものだ。だが、心の片隅では「どうして私が家を支えなければならないのか?」という疑問が消えずに残っていた。
「姉上……あなたなら、この重さをどう支えたでしょう?」と、心の中で問いかける。しかし、答えはない。あの強くて、優しい姉の返事は、今はもう手紙の中にしか存在しない。エリーナの指先が自然と震え、その不安が徐々に増していく。
ふと、彼女は手紙の一節に目を留めた。「エリーナ、もし私がいなくなっても、大丈夫だからね。あなたには強い心がある。私の分も、未来を信じてほしい」リディアの言葉に励まされた気持ちが少しよみがえるが、その一方で、その言葉が暗示する何かを恐れる気持ちもあった。
エリーナは手紙を再びそっとしまい、思わず涙をぬぐった。「あなたが信じた未来を、私も信じていかなければ……」そんな決意を胸に、彼女は立ち上がる。明日もまた、リディアが戻ってくるその日まで、自分ができる限りのことを果たしていくと心に誓ったのだった。