両親への悲報
エリディアムのクレスウェル家の館に、冷たく張り詰めた空気が流れていた。ガイウス・クレスウェルは書斎の窓辺に立ち、手の中で一通の手紙を握りしめていた。送り主は「アルカナの灯火」と記されていた。普通であれば慎重に対応すべき相手だが、手紙の内容が緊急性を帯びていることは明らかだった。
ガイウスは深呼吸をし、手紙を再度目で追った。信じがたい内容に、胸の奥がひりつくような痛みを覚えた。「リディアが消息を絶った」という事実を、どうやって妻のアンナに伝えればいいのか、言葉を探しあぐねていた。
アンナは書斎に入ってくるなり、夫の沈んだ表情に気付いた。「ガイウス、何があったの?顔色が悪いわ」
ガイウスは目を閉じて、手紙を彼女に差し出した。アンナは恐る恐る手紙を受け取り、震える手で内容を読み始めた。読み終わるころには、彼女の目には涙が浮かんでいた。
「リディアが……消息を絶った……?」アンナは呆然とした表情を浮かべ、言葉を詰まらせた。彼女の瞳は一瞬で絶望に染まりそうになったが、すぐに強さを取り戻した。
「何かの間違いよ……彼女がそんなことで消えるはずがない。リディアは強い子だもの!」アンナは震える声を押し殺し、母としての責任感を懸命に保とうとした。
ガイウスは苦渋の表情を浮かべながら、アンナに歩み寄り肩を抱いた。「信じたい、そう思うのは私も同じだ。だが、この手紙を送ってきたのがアルカナの灯火だということを無視することはできない。彼らがわざわざ連絡を寄こしたからには、確かな事情があるのだろう」
アンナは夫の言葉を聞きながら、心の奥底で燃える母親としての本能が呼び起こされていく。「ならば私たちが動かなければ……リディアを助けるために、何でもする覚悟よ」
ガイウスは深いため息をつき、顔を曇らせたまま頷いた。しかし、その目には迷いが浮かんでいた。「エリーナに……知らせるべきだろうか?」
アンナは逡巡しながらも、エリーナの幼さを思い出していた。「知らせない方がいいかもしれない。でも、彼女にはリディアのことを一番に思っている妹としての権利があるわ」
二人はしばし無言のまま考え込んだ。最終的に、ガイウスは深く息を吐き出し、決断した。「まずは事実関係を確認するために使用人に指示を出そう。ただ、確認には相当な時間がかかるだろう。それならば、待つよりもエリーナに真実を話して、彼女を支え合うべきだ」
アンナは目を閉じて深く頷き、エリーナに知らせる覚悟を決めた。「ええ……その方が良いわね」
二人は、愛する娘を失う不安に揺れる心を抱えながらも、家族としての結束を強める覚悟を固めていった。そして、姉妹の絆が再び試される日が来ることを願いながら、リディアのために最善を尽くすことを誓った。