危険の兆し
危険の兆し
月明かりの下、木々の間を縫うようにして進む偵察隊の動きは静かだった。周囲には不自然なほどの沈黙が広がり、心の中で警鐘が鳴り響く。エリオットは一歩前を行きながらも視線を巡らせ、いつでも指示を出せるように警戒を緩めなかった。彼の背後で、アリーナは緊張に震える手を必死に押さえつけていた。念話の力を使って仲間たちに情報を迅速に伝えることは彼女の役目だが、その重圧は初めての現場では一層重くのしかかる。
「アリーナ、集中して。今は君の力が頼りなんだ」エリオットが小声で言う。彼の声には冷静さと共に信頼が込められており、アリーナは心を静めるように深呼吸をする。
そのとき、リュドミラがふと足を止め、サイコメトリーの力を発動させた。彼女の瞳が一瞬、焦点を失い、次に再び鋭く輝いた。「見張りが増えているわ……私たちが近づいていることを察している可能性がある」
「全員、動きを鈍らせるな。距離を取って回り込む」エリオットは素早く指示を出し、仲間たちはそれぞれの位置で従った。アリーナは念話でその指示を全員に伝え、緊張感が張り詰める中で、脳裏に走る恐怖を押し殺した。彼女の声は震えず、確実に仲間たちへと届いていた。
灰燼の連盟のイリア・マリウスが低くつぶやく。「判断は迅速だが、覚悟はあるか?」
その問いかけに、リュドミラが静かに答えた。「覚悟は常にある。仲間を無事に戻す、それだけよ」
エリオットはリュドミラと視線を交わし、短くうなずくと再び前方に目を向けた。月の光が彼らの前に落ちる影を一層深くし、次なる動きへの期待と恐怖が胸を締めつけていた。
危険の兆し.txt · 最終更新: 2024/11/17 09:06 by webmaster