即位の朝、始まりの準備
早朝の都は、冷たい霧に包まれていたが、その中にもざわめきが聞こえていた。広場を中心に人々が集まり、城へと続く大通りには、帝国の新たな旗が高々と掲げられていた。その旗には、輝く月と星を象った紋章が刻まれ、これから始まる時代を象徴していた。
セリーヌ・アルクナスは、自室の窓辺からその様子を静かに見つめていた。まだ少しの眠気が残る目をこすりながら、彼女は胸元に手を当てる。「これは私の選択、私が背負う責任」その声は自分に言い聞かせるようだった。
ドアが軽くノックされ、アレクサンドルが入ってきた。「セリーヌ、準備は順調だ。警備の配置も完了している」彼は真剣な表情で地図を広げ、要所の確認を始めた。
セリーヌは小さく頷いた。「ありがとう、アレック。これほどの準備をしてくれた皆に感謝している」その声には感謝の念とともに、わずかな不安も滲んでいた。
「全員がこの日を待ち望んでいる。貴族も民衆も、そして我々も」アレクサンドルは静かに言った。「だが、不安も混ざっているのは否定できない」
城下町では、各地から集まった貴族や支持者たちが宿泊施設に滞在していた。広間には華やかな衣装を纏った貴族たちが集まり、これから始まる新体制への期待や不安を語り合っていた。
一方、民衆もまた広場に集まり、式典の準備が進む様子を遠巻きに眺めていた。「これで本当に戦乱は終わるのだろうか」と語る老夫婦。「新しい時代が訪れるといいね」と希望を口にする若者たち。彼らの顔には期待と疑念が入り混じっていた。
レオニードは城の大広間で兵士たちに最後の指示を与えていた。彼の声は低く安定しており、どこか安心感を与えるものだった。「警備は厳戒態勢だ。特に広場周辺と主要な通路は目を離さないように」その背中には、これまでの戦いで培われた経験と覚悟が滲んでいた。
彼の隣で指示を聞いていたリュドミラが口を開く。「透視の力で怪しい動きがあれば、すぐに報告する。準備は完璧にしておきたいわ」
式典会場では、準備が最終段階に入っていた。職人たちは旗や装飾品を整え、楽団は式典で奏でる曲を確認していた。壇上では、セリーヌの玉座が置かれ、その周囲には彼女を称えるための装飾が美しく施されていた。
アレクサンドルが壇上の配置を確認しながら、セリーヌに向き直った。「この日を迎えられるのは、あなたの力があったからだ」
セリーヌは微笑みながら、「私だけではない。あなたたち全員がこの道を切り開いてくれた。だからこそ、私は皆のためにこの玉座に座る」その声には確固たる決意が込められていた。
城内外が活気に包まれる中、日差しが徐々に霧を追い払い始めた。新たな時代の幕開けを予感させる空気が都全体に漂っていた。そして、その中心にはセリーヌが立っていた。彼女の背中には、帝国の希望と未来が背負われていることが明確だった。
「すべてが準備された」レオニードが確認の報告をし、アレクサンドルは深く頷いた。「次は式典だ」
彼らはそれぞれの役割を果たすべく散っていき、いよいよ新しい時代への準備が整った。