吟遊詩人との出会いと信頼の証
ロマリウス邸を出発して数日が経ち、アレクサンドル、マリアナ、リュドミラ、アレナは森の中を進んでいた。陽光が木漏れ日となって地面に踊り、旅の緊張を少し和らげていた。
道の曲がり角に差し掛かると、どこからともなく優雅な弦の音が風に乗って聞こえてきた。アレクサンドルは歩みを止め、注意深く耳を澄ました。「誰かが近づいているようだ。警戒を怠るな」
間もなく、華やかな衣装を纏い楽器を携えた男が現れた。彼は柔らかな笑みを浮かべ、軽やかに声をかけてきた。「おや、こんな道でお会いできるとは!私はリューシス・フィデリス、吟遊詩人です。カストゥムへ向かうところでね」
アレクサンドルの目は鋭く光り、男をじっと見据えた。「ここで偶然会うには妙だな。君が何者か、もう少し聞かせてもらおう」
リューシスは少し緊張した様子を見せたが、気を取り直して話を続けた。「ああ、確かに怪しまれても仕方ないね。でも、黎明の翼やクレスウェル家の噂は知っているし、さらには月の信者たちの動向も耳に入れている。実は、その情報を持って君たちに協力できればと考えていた」
その言葉にマリアナが眉をひそめた。「どうして私たちに協力を?」
リュドミラが前に出て、リューシスに向かって静かに手をかざした。彼女の茶色い瞳が鋭く輝き、サイコメトリーの力を発揮する。「少し触れさせてもらうわ。真意を確かめるためにね」
リューシスは驚いたが、ためらいなく手を差し出した。リュドミラが彼の手を軽く触れると、彼の心にある真実が伝わってきた。誠実さと協力の意志、黎明の翼への共感が彼女の中に染み渡る。
数瞬後、リュドミラは手を離し、静かに頷いた。「信じてもいいわ。彼は私たちに害を及ぼすつもりはない」
アレクサンドルは一瞬の間を置き、鋭い視線を和らげた。「わかった、リューシス。君の協力を歓迎しよう。ただし、我々の目的を裏切らないことを約束してくれ」
リューシスは安心した表情で頷き、「もちろんだ。情報と音楽であなたたちを支えよう。カストゥムまでの道を共に進ませてくれ」
4人と新たな仲間リューシスは、朝日に照らされた森の道を再び歩き始めた。彼の加入によって旅に新たな活気と情報の糸が加わり、未来への期待が胸を膨らませていた。