救いの手:リュドミラが感じた恩義
リュドミラ・アラマティアは、ある密輸組織を追い詰めるため、エリディアム郊外の廃れた倉庫に潜入していた。目的は、闇市場で取引されている禁制品の証拠を押さえ、組織を壊滅させること。しかし、敵はリュドミラの動きを予測しており、彼女を待ち伏せしていた。完璧だったはずの作戦は、予想外の伏兵によって完全に崩壊した。
複数の敵に囲まれ、瞬時にリュドミラは戦闘態勢に入った。素早い動きで次々に敵を倒していくものの、圧倒的な数に徐々に追い詰められていく。彼女は冷静さを保ちながらも、体力の限界が近づいていることを感じていた。心の中で覚悟を決めかけたその時、突如として外からの騒ぎが起こった。
「そこをどいて!」声が響き渡ると、周囲の敵が次々と混乱に陥った。その隙をついて現れたのは、リディア・クレスウェルだった。
リディアは周囲の状況を一瞬で見渡し、手早く手にした短剣で最も危険な敵を無力化した。動揺した敵の隙を突き、リディアはリュドミラに素早く合図を送り、二人は抜け道を探しながら協力してその場を脱出した。
倉庫を抜け出し、隠れた路地でようやく息を整えた二人。リュドミラは汗で濡れた前髪をかき上げ、リディアをじっと見つめた。
「なぜ助けた?」冷静さを装いながらも、その声にはわずかな驚きが含まれていた。
「別に深い理由はないわ。ただ、あなたが無駄に死ぬのを見たくなかった。それに、敵を混乱させたかっただけ」リディアは無表情で淡々と答えたが、その言葉にはどこか軽さが感じられた。
「だが、あの場でリスクを取る必要はなかった。助けを求めた覚えもない」リュドミラの口調には不満というより、戸惑いが込められていた。
リディアは肩をすくめた。「あのまま放っておいたら、確実にあなたは死んでいた。私は必要だと思ったから動いた。それだけよ」
リュドミラは一瞬言葉に詰まったが、彼女の冷静な判断と迅速な行動がなければ、自分は今ここにいなかったことは明らかだった。彼女は感謝の言葉を口にすることができず、ただ静かに頷いた。
リディアはリュドミラの様子を見て、少しだけ微笑んだ。「借りを作ったと思わなくていいわよ。私はただやるべきことをやっただけ」
「だが、私は借りを作ったと思っている」リュドミラは静かに言った。彼女の声には強い決意が宿っていた。「いつか、必ず返す」
リディアはその言葉に対して何も言わず、ただ軽く手を振って立ち去った。
リュドミラはその場に立ち尽くしながら、リディアの姿を見送り、心の中で静かに誓った。彼女はリディアに命を救われた。それは単なる偶然や気まぐれではなく、リディアが自分を助けたのだと理解していた。リュドミラは自分が受けた恩を、必ず返すと決めた。
この出来事が、リュドミラ・アラマティアがリディア・クレスウェルに対して「借り」を感じるきっかけとなった。今後、リュドミラはリディアの行方を追い、その恩を返すために行動を開始することになるのである。